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ちーべんエコバッグ

ちーべんをご存知ですか?

 

と聞いておいてなんですが,大多数の方はご存知ないでしょう。

ちーべんとは千葉県弁護士会の公式キャラクターです。

コレです。

悪夢を食べるという獏をモチーフにしたキャラクターで,当会の会員のアイデアをもとに専門家がキャラクター化したものです。

ちーべんはゆるキャラブームが盛り上がってやがて下火になった頃の確か4,5年前に誕生したと記憶しております。認知度は低く,ちーべんと検索してもチーバくんという千葉県公式キャラクターばかり出てきます。

さて,どの委員会が主導しているのかわかりませんが,この度ちーべんのエコバッグを作成したとのことで会員向けに購入のお誘いメールがありました。

こんなものに我々の会費を使いおってという先生方のお叱りの声もあろうかと思いますが,きらいではない私は1枚ゲットしました。

 

ただ,写真ではお分かりにならないかもしれませんが,とても安っぽい。色々な批判を恐れての低価格(200円也)戦略がアダとなっている気がしてなりません。コンビニエンスストアで買い物するときに利用するにも,500ミリリットルのペットボトルを入れるには憚られるチャチさがあります。グミ用かな。

フジパン本仕込みのプレゼントであるミッフィーちゃんのエコバッグに代わることは難しそうです。これはよくできています。

 

実は,ちーべんくんのぬいぐるみもあり,よく弁護士会の受付に鎮座しております。相談中に小さなお子様の相手をしてもらおうと,ちーべんくんのぬいぐるみが欲しいと思ったこともあるのですが,これは非売品のようで手にすることはできないとのことでした,残念。

 

このエコバッグ何にも使えないなぁとしげしげ見ているうちに,こんなことをしているのは当会,千葉県弁護士会だけなんだろうか,ほかの単位会でも公式キャラクターってあるのかなと疑問に思うようになりました。

で,調べてみましたら,いろいろでてきました。

 

秋田県弁護士会は,「ききーぬ」

群馬弁護士会(のADRのイメージキャラクター)は,「スパットくん」

埼玉弁護士会は,「・・・(名前がまだ非発表)」

神奈川県弁護士会は,「みみん」と「るるん」

静岡県弁護士会は,「しずべんちゃん」

新潟県弁護士会は,「まもルン」 まもルンの子供の(?)「ハピ」と「ララ」

福井弁護士会は,「福ロウ」

滋賀弁護士会は,「ナヤマズン」

愛知県弁護士会は,旧キャラ(?)が「聞之介」,新キャラ(?)が「ひまるん」

京都弁護士会(の広報委員会のキャラクター)は,「京幸平」と「日向葵」

(可視化実現本部キャラクター)は,「カシカシカ」

奈良弁護士会は,「こまちゃん」

和歌山弁護士会は,「ほぅえーる」

兵庫県弁護士会は,「ヒマリオン」

広島弁護士会は,「カープローヤー」

岡山弁護士会は,「たすっぴ」

山口県弁護士会は,「ふくえる」

鳥取県弁護士会は,「まさこ先生」

大分県弁護士会(の法律相談センターのマスコットキャラクター)は,「ふくろん」

佐賀県弁護士会は,「よか丸くん」

熊本弁護士会は,「くまろっポン」

沖縄弁護士会は,「べんごシーサー」

単位会ではありませんが日弁連は,「ジャフバくん」

 

5年,10年して,そんなことしていたかなぁ?となるのか,他の単位会からニューカマーが現れるのか,注意して見守りたいと思います。

改正相続法7 遺産分割前における預貯金の払戻し制度2(民法第909条の2)

今回は,改正相続法7 遺産分割前における預貯金の払戻し制度2(民法第909条の2)です。

 

前回,遺産分割前においても一定の範囲であれば共同相続人の同意を得ること無く預貯金の払い戻しをすることができると説明しましたが,今回はその方法・効果等について説明したいと思います。

 

 

Q1 相続人は私と弟です。私は亡くなった父の葬儀費用に充てるため,民法第909条の2に基づいて,父名義の預貯金600万円から100万円を引き出したいと思っています。何を準備する必要がありますか。

A1 金融機関に戸籍謄本を提出する必要があるでしょう。

民法第909条の2に基づいて一定の範囲で預貯金の払い戻しをすることができるとして,具体的に何を用意すればいいのかについては,金融機関に問合せをしていただくことが間違いありませんが,少なくとも戸籍等が必要になると思います。

金融機関において民法第909条の2による払い戻しか否かを判断するには,①被相続人が死亡した事実,②相続人の範囲及び③払い戻しを求める者の法定相続分が分かる資料が必要になるところ,それは戸籍等ということになるからです。

 

Q2 相続人は私(A)と弟(B)です。私(A)は父名義の唯一の遺産である預貯金600万円から100万円を引き出しました。私(A)は父の生前に特別受益として600万円を取得しています。遺産分割では残りの預金500万円を弟(B)に取得させれば十分でしょうか。

A2 十分ではありません。弟さんが預金500万円を相続するのと別にして,あなたから弟さんに100万円を支払う必要があります。

 

民法第909条の2後段によって,同条前段により権利行使がされた預貯金債権については,その権利行使をした共同相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなすことにしています。

そして,仮に払戻した預貯金の額賀その者の具体的相続分を超過する場合でも,当該共同相続人はその超過分を清算すべき義務を負うことになります。

説例では,

遺産分割の対象財産=500万(残りの預貯金)+100万(一部分割により取得したものとみなされる財産)=600万

Aの具体的相続分=(600万+600万(特別受益))×1/2-600万=0

Bの具体的相続分=(600万+600万(特別受益))×1/2=600万

しかし,実際には遺産分割時の相続財産は500万円しかないので,Bは,預金債権500万円とAに対する代償金請求権100万円を取得することになります。

 

 

Q3 相続人は私(A)と弟(B)です。被相続人の父は唯一の遺産である預貯金600万円のうち,400万円を弟に相続させ,200万円を交際相手(C)に遺贈するとの遺言書を残りました。私は,預貯金の中から100万円を引き出すことができますか。

A3 引き出そうとする100万円は本来払い戻しの対象となりませんが,BやCが所定の債務者対抗要件を具備する前に払い戻された場合,その払い戻しは有効となります。

 

払い戻しの対象とならないのに,払い戻しが有効となるというのは少しわかりにくいかもしれません。

まず,払い戻しの対象とならないことの説明からします。

民法第909条の2は「遺産に属する預貯金債権」を対象としています。預貯金債権が特定財産承継遺言の対象となった場合(前記B)や遺贈の場合(前記C)には,当該預貯金債権は遺産に属しないことになるので,同条の規定による払い戻しの対象とならなくなるのです。

ですから,説例の場合,本来預貯金100万円を引き出すことはできないことになります。

次に払い戻しが有効であることの説明をします。

遺贈のみならず特定財産承継遺言についても対抗要件主義が採用されることになったので(第899条の2),金融機関としては所定の債務者対抗要件(遺贈については第467条,特定財産承継遺言については第899条の2第2項)が具備されるまでは,当該預貯金債権が遺産に属していることを前提に処理すれば足り,その後に債務者対抗要件が具備されたとしても,既にされた第909条の2の規定による払い戻しが無効になることはありません。

金融機関としては預貯金債権が第三者に遺贈されたのか,ある共同相続人が法定相続分を超えた預貯金額を相続する遺言があるのか,一見してわからないわけです。にもかかわらず第909条の2の範囲内で払い戻しをしたのに,それは「遺産に属する預貯金債権」ではなかったからその払い戻しが無効だとされたのでは,安心して払い戻しをすることができません。

そこで,受遺者等と払い戻しをする相続人との優劣はあくまでも債務者への対抗要件の問題として処理することにしました。

上記説例でAが預貯金を引き出してしまうと,BやCに不利益が生じることになりますが,それが嫌ならBもCも金融機関に対する対抗要件を具備すればよかったのですから,格別不利益はないと考えるのです。

 

遺産分割前における預貯金の払戻し制度についての前回の説明

改正相続法6 遺産分割前における預貯金の払戻し制度1

改正相続法6 遺産分割前における預貯金の払戻し制度1(民法第909条の2)

今回は,改正相続法6 遺産分割前における預貯金の払戻し制度1(民法第909条の2)です。

 

法改正というのは,実務における社会的要請,問題を立法的に解決をする必要があるときになされます。

そのため,法改正は社会や国民のためには大変結構なこと,望ましいことといえるでしょう。

法曹である弁護士としては,法改正を基本的に喜ばしいものと考え,いち早くその知識の習得に勤しむ必要があると考えます,・・・考えますが,弁護士も人の子,一度習得した知識をブラッシュアップするわけですから,面倒だなと思わないこともないわけです,正直申し上げて。

特に結論がころころかわる改正がなされた際には,その思いは強かったりするわけです。

今回取り上げる法改正も結論がころころかわった改正といえるのですが,面倒だといっていられないくらい実務においては影響のある改正といえるので,しっかり抑えておかなければなりません。

問題となるのは,遺産分割をする前に預貯金からお金を払い戻すことができるのか,です。

 

枕はこのくらいにして,本題。

 

Q1 相続人は私と弟です。亡くなった父には50万円の借金があるようで,債権者からその返済を求められています。幸いにして甲銀行に父名義の預貯金500万円が見つかりましたので,私はこの預貯金の中からとりあえず50万円を返したいと思っています。弟と遺産分割をする前に50万円を引き出すことができますか。

A1 できます。

 

50万円を引き出すことができるようになったのは,民法第909条の2が今回の改正で新設されたからです。同条の説明前に,従来,遺産分割前の預貯金の払戻しをどう扱っていたのかを確認しましょう。

1 平成28年12月19日前

預金債権は,相続の開始と同時に各共同相続人の相続分に応じて当然に分割されるから,各相続人は自己に帰属した預金債権を単独で行使できる,と判例上されていました。

説例によると,兄は250万円を引き出せたことになります。

 

2 平成28年12月19日以後今回の改正前

預金債権は現金類似の性質を有するので遺産分割の対象に含まれるから,共同相続人全員の同意を得なければ遺産分割前に預貯金を払い戻すことはできない,という最高裁の決定により判例変更がなされました。

説例によると,兄は預金を引き出せないことになります。

これは実務上かなりインパクトのある判例変更でした。

相続人間の公平のためには裁判所の判断を経ずに預貯金の払戻しを認めるべきではないとの考えに基づいており,これはこれで意義のある判例変更でした。

しかし,この判例変更によって,共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある,あるいは,被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなど,被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要がある場合であっても,共同相続人全員の同意を得ることができない場合には,払い戻すことができないという不都合が生じてしまいました。

3 相続改正後(令和元年7月1日以後)

各預貯金債権の3分の1に払い戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額については,単独で払い戻しをすることができる(民法第909条の2),ことになりました。

説例によると,500万円の3分の1に兄の法定相続分2分の1を乗じた額,

500万×1/3×1/2=83万3333円まで払い戻すことができます。

 

改正相続法は,共同相続人の各種の資金需要に迅速に対応することを可能とするため,各共同相続人が,遺産分割前に,裁判所の判断を経ることなく,一定の範囲で遺産に含まれる預貯金債権を行使することができる制度を設けることにしました。

しかし,無制限に預貯金債権を行使することを認めたのではなく,平成28年12月19日の最高裁決定が,現金類似の性質を有する預貯金債権を遺産分割の対象とする旨の判断を示したことに鑑みて,預貯金債権の一部についてのみ単独で権利行使することができると定めました。

そしてその範囲を,各預貯金債権の額の3分の1に払い戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額としました。

 

 

Q2 相続人は私と弟です。亡くなった父には100万円の借金があるようで,債権者からその返済を求められています。幸いにして父名義の預貯金が甲銀行に200万円,乙銀行に600万円が見つかりましたので,私はこの預貯金の中からとりあえず100万円を返したいと思っています。弟と遺産分割をする前に乙銀行のみから100万円を引き出すことができますか。

A2 できます。

民法第909条の2によって権利行使することができる預金債権の割合及び額については,個々の預貯金債権ごとに判断されることになっています。

ですから,設問の例では甲銀行から20万円,乙銀行から80万円を払い戻してもいいですし,乙銀行から100万円を払い戻してもよいことになります。

 

 

Q3 相続人は私と弟です。亡くなった父には300万円の借金があるようで,債権者からその返済を求められています。幸いにして父名義の預貯金が甲銀行に900万円,乙銀行に3000万円が見つかりましたので,私はこの預貯金の中からとりあえず300万円を返したいと思っています。弟と遺産分割をする前に乙銀行のみから300万円を引き出すことができますか。

A3 できません。同一の金融機関に対する権利行使は,現在のところ150万円までとされているため,乙銀行のみから300万円を払い戻すことはできません。

民法第909条の2によれば権利行使の限度について,「標準的な当面の必要生計費,平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案し預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする」との規定があります。

そして,平成30年法務省令第29号によると,民法第909条の2に規定する法務省令で定める額は150万円とされています。

民法第909条の2が払い戻しを請求できる金額の上限額を法律で規定するのではなく法務省令に委任したのは,標準的な当面の必要生計費,平均的な葬式の費用の額その他の事情は景気や社会情勢によって変動する可能性があるところ,柔軟に対応するためには上限額を法務省令で定めたほうが良いと考えたからです。

最後に計算式をまとめておきます。

相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×1/3×当該払い戻しを求める共同相続人の法定相続分=単独で払い戻しをすることができる額

※ただし,同一の金融機関に対する権利行使は,法務省令で定める額(150万円)を限度とする。

 

社会的要請,問題に応えるために柔軟といえば柔軟ですが,上限額を把握するのに民法をみるだけではなく法務省令についても確認しなくてはいけないというのは,法律の明確性という一方の要請が後退するわけでして,複雑になったなあという感じが正直いたします。

 

改正相続法5 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱い(民法第906条の2)

今回は改正相続法5 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱い(民法第906条の2)です。

今回の改正部分は,いわゆる相続における使途不明金問題に関係します。相続における使途不明金問題とは,例えば相続前又は相続後遺産分割前に共同相続人の一人が勝手に被相続人の財産を費消してしまった場合にどう処理するのかという問題です。この使途不明金問題は実務上度々問題となります。

結論の先取りのようですが,今回の改正法で民法第906条の2が設けられたことによって,相続における使途不明金問題については,遺産分割調停・審判で解決できる場合が多くなりました。

実務において重要な改正だと思いますので,今回は遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱いを規定した民法第906条の2についてお話したいと思います。

 

それではいつものように前提知識から

遺産分割調停・審判で当然に分割の対象となる財産は,①被相続人が相続開始時に所有し,②現在(分割時)も存在する,③未分割の,④積極財産とされます。

そのため,被相続人の生前に相続人の一人が引出した預貯金や,被相続人が死亡した後に相続人の一人が引出した預貯金は,相続開始時又は分割時に存在しないため,原則として遺産分割の対象とすることができません。

もっとも,実務上は,解釈によって,相続人全員の同意がある場合は例外的に遺産分割の対象としておりました。

しかし,勝手に預貯金等を引き出した相続人が,引き出した預貯金を遺産分割の対象とすることに同意をするということは通常ありません。

そのため,使途不明金問題は民事訴訟で別に解決する必要がありました。

具体的には,不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起しなければなりませんでした(使途不明金に説明はコチラの遺産分割の付随問題 使途不明金についても参考にしてください。)。

 

それでは本題

Q1 相続人は私と弟の二人です。その弟が,相続開始時の預金3000万円のうち1000万円を勝手に引き出してしまいました。遺産分割調停の他に民事訴訟をしないといけないでしょうか。

A1 弟さんの同意を得ないで1000万円の預貯金についても遺産とみなして遺産分割調停を行うことができます。

新しい相続法では,遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人全員の同意がある場合には,処分された財産も分割時に存在するものとして,遺産としてみなすことができると,明記されました(民法906条の2第1項)。

そして,共同相続人の一人又は数人により処分がされたときは,当該共同相続人についての同意を得ることを要しないとも定められました(民法906条の2第2項)。

民法906条の2第1項は従前の実務上の扱いを明文化したものですが,より重要なのは同条第2項です。

処分をした相続人の同意が得られないために遺産分割調停の対象とならないとすると,処分をした者の最終的な取得額が処分をしなかった場合と比べて大きくなり,その反面,他の共同相続人の遺産分割における取得額が小さくなるという計算上の不公平が生じえます。

そうした不公平をさけるために,新しい相続法では,処分をした相続人の同意は不要としたのです。

これにより,処分をしていない相続人らの同意のみで処分をした財産を遺産分割とすることができるようになりました。

上記の例ですと,弟の同意を得ずに,引き出された1000万を遺産とみなして遺産分割調停を行い,残存する預貯金2000万の内1500万を兄が,残りの500万を弟が取得することができるようになったのです。

 

 

Q2 相続開始時に3000万円あった預貯金から知らぬ間に1000万円引き出されていました。引き出したのは相続人の一人の弟しかいないと思うのですが,弟は知らないと言い張っています。遺産分割調停・審判の他に民事訴訟をしないといけないでしょうか。

A2 遺産分割事件を取り扱う家庭裁判所において処分者についての事実認定をすることができます。ただし,1000万円が遺産に含まれることの確認を求める民事訴訟を提起した方がよい場合が多いと思います。

民法第906条の2第2項が適用されるのは,共同相続人の一人又は数人が遺産に属する財産を処分したことに争いがない場合であり,被相続人の預貯金を払戻したのが誰か不明な場合には同条項をそのまま適用することはできません。

しかし,遺産分割前の遺産に属する財産が処分されたが,共同相続人間で誰がその処分をしたのか争いが生じる場合,遺産分割事件を取り扱う家庭裁判所においても,遺産分割の前提と問題としてその処分者について事実認定をした上で,遺産分割の審判をすることは可能です。

例えば,預貯金の払戻しが窓口で行われた場合,払い戻しの手続きを行った際の書類を見れば,筆跡等により,誰が払い戻したか容易に分かることがあります。

家庭裁判所は払い戻し手続きをした当事者が特定できる場合,当該相続人に払い戻しを認めて遺産の範囲に含めることに理解を求めていくことになります。

したがって,必ずしも民事訴訟をする必要はないとはいえます。

もっとも,遺産分割の審判の中でした事実認定については拘束力(既判力)がないので,後日争われ,結果審判の効力が否定されるおそれがあります。

家庭裁判所の努力にもかかわらず当該相続人が払い戻しを認めない場合には,その他の相続人に,後に認定判断が覆るリスクを引き受けた上で遺産分割審判を続けていくか,時間も費用もかかりますが,終局的な解決をめざすべく遺産分割調停・審判の手続を止めて,払い戻された預貯金が遺産の範囲に含まれることを確認するための遺産の範囲確認訴訟を提起するかの選択を求めることになります。

状況にもよるのでしょうが,代理人としては(私なら),後に遺産分割前の遺産に属する財産の処分者についての認定が争われて,遺産分割審判の効力が否定されることのないように,処分された財産が遺産に含まれることの確認訴訟を提訴することを選択するのではないでしょうか。

なお同確認訴訟では,民法906条の2が設けられたことから,①処分された財産は相続開始時に遺産に属していたこと,②処分者は弟であること,③相談者は1000万の預金を遺産分割の対象に含めることに同意していることを主張することになります。

民事訴訟で処分された財産が遺産に含まれることになれば,その判断に既判力が生じるので,遺産分割手続きを行う家庭裁判所は処分された財産が遺産に含まれることを前提として遺産分割を行うことになります。

 

 

Q3 相続人は私と弟と妹の三人です。弟は被相続人の死後に被相続人の預貯金から1000万円を引き出したことは認めているのですが,引き出したお金は被相続人からもらったものだとか,葬儀費用に使ったとか述べて自分が取得したことを認めません。妹は弟の説明に納得しているようなのですが,私は納得していません。このような場合も,民法第906条の2第2項によって,引出された1000万円についても遺産とみなして遺産分割調停・審判をすることができるでしょうか。

A3 妹さんが同意することはなさそうですから,民法第906条の2第2項によって引出された1000万円を遺産分割の対象とすることはできないでしょう。別途,民事訴訟を提起する必要があります。

 

Q3は,相続人として払い戻しをしたことを認めておりますが,引き出した預貯金を自己の取得分とすることを認めないケースです。取得分として認めない理由は,払戻した預貯金を,相続債務,公租公課,遺産管理費,葬儀費用など,相続人全員のために費消したからと述べることが多いと思います。

このような場合,家庭裁判所は自己の取得分として認めない当事者に対して,費消の事実や費消に至る経緯,遺産から支出することの相当性等について,裏付けとなる資料の提出を求め,説明を受けることになります。そしてその後の処理は以下のように当該説明に他の相続人が納得するか否かで異なっていきます。

(1)当該説明を他の相続人が納得すれば,同意は問題とならないので,払戻した預貯金は遺産分割の対象にはならないことになります。この場合,別途民事訴訟がなされることもないでしょう。

(2)当該説明を共同相続人の内の一部は納得したが全員の納得が得られなかった場合は(Q3のケース),納得をした者は民法第906条の2の同意をすることはないでしょうから,同条によって払い戻された預貯金が遺産分割の対象となることはないことになります。このような場合は,説明に納得のいかない相続人は,別途民事訴訟をしなくてはならなくなるでしょう。

(3)当該説明を他の共同相続人全員が納得しない場合は,これらの者は民法第906条の2の同意をするでしょうから,同条によって払い戻された預貯金が遺産分割の対象となることになるでしょう。もっとも,払戻しをした当事者と使途を問題として遺産の範囲に含めることに「同意」をした相続人全員との間では,別途民事訴訟での解決が必要な場合もあるでしょう。

 

したがって,①預貯金を払戻した相続人を特定でき,②払戻した預貯金を自分で取得したことに争いがなく,③払い出された預貯金に比して分割時に残っている財産(遺産)が多い場合には,使途不明金問題は遺産分割調停・審判で解決することが容易になったといえます。

もっとも,民法第906条が新設された後も,①当該相続人が預貯金の払戻しを争う場合や,②払戻した預貯金を自己の取得分として認めない場合,また,③引出された預貯金に比して分割時に残っている財産(遺産)が少ない場合には,なお従前どおり民事訴訟での解決が必要になることが多いといえるでしょう。

改正相続法4 遺留分侵害額請求4(民法第1046条第2項第2号)

改正相続法シリーズの4回目,遺留分侵害額請求4(民法第1046条第2項第2号)です。これで遺留分侵害請求権の回は終了となります。

遺留分侵害額請求はとても専門的でただでさえ理解しにくいのに,このブログでは専門的な情報,知識を書いているので,こんなの書かれてもわからないと思われることが多いかもしれません。

こんなの書いてもわかってもらえないと思いつつ,今回も遺留分侵害額請求の最後を飾るにふさわしい,難易度かなり高めの内容となっております。

 

 

まず,今回は遺留分侵害額の計算方法が前提知識として必要なので,計算式を載せておきます(詳しくは遺留分侵害額請求2参照)。

Ⅰ 遺留分侵害額=遺留分額(A)

-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額(B)

-遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(C)

+遺留分権利者が負担する債務の額(D)

Ⅱ 遺留分額(A)=遺留分を算定するための財産の価額(a)×個別的遺留分

Ⅲ 遺留分を算定するための財産の価額(a)=相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額(①)

+贈与財産(②)

-相続債務の全額(③)

 

 

以下本題

Q まだ遺産分割をしていない遺産分割対象財産があります。遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(上記C)は法定相続分を前提に計算すればいいですか,具体的相続分を前提に計算すればいいですか?

A 遺産分割が既に終了しているか否かを問わず,具体的相続分を前提にして遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(上記C)を計算することになります(ただし寄与分については考慮しない)。

 

改正前は,遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(上記C)を計算するにあたり,法定相続分を前提とするのか,具体的相続分を前提とするのかについて判断が分かれていましたが,新しい相続法によって具体的相続分を前提とすることに定められました。

これは,遺留分侵害額請求が問題となる事案は,通常生前贈与等の特別受益がある場合が多いにもかかわらず,遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額を算定する際に特別受益の存在を考慮しない考え方(法定相続分説)を採用すると,その後に行われる遺産分割の結果との齟齬が大きくなり,事案によっては,遺贈を受けている相続人が,遺贈を受けていない相続人に比して最終的な取得額が少ないという逆転現象が生ずる場合があり,相当ではないと考えられるからです。

 

この説明だけではわかりにくいので,(事例で考えてもわかりにくいですが)事例で考えてみましょう。

相続人は,被相続人の妻A(法定相続分は2分の1),長男B(法定相続分は4分の1),次男C(法定相続分は4分の1)の3人です。

被相続人には1000万の預金がありました。また,長男Bに1000万の現金,第三者Dに8000万相当の土地を遺贈しました。相続時に借金はありませんでした。

法定相続分説を採用した場合

[遺産分割]

Aの具体的相続分=(1000万+1000万)×1/2=1000万

Bの具体的相続分=(1000万+1000万)×1/4-1000万=-500万

Cの具体的相続分=(1000万+1000万)×1/4=500万

Aの取得額=1000万×1000万÷(1000万+500万)≒666万6667

Bの取得額=0

Cの取得額=1000万×1000万÷(1000万+500万)≒333万3333

[遺留分]

Aの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/2-1000万×1/2=2000万

Bの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/4-1000万-1000万×1/4=0

Cの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/4-1000万×1/4=1000万

[結果]

Aの最終的な取得額=666万6667+2000万=2666万6667

Bの最終的な取得額=1000万

Cの最終的な取得額=333万3333+1000万=1333万3333

Dの最終的な取得額=8000万-2000万-1000万=5000万

(注:Bの遺贈についてはBの遺留分の範囲内なので負担なしとなり,遺留分侵害請求を受けるのはDのみとなるので,上記結果となります。受遺者等が相続人の場合の遺留分侵害請求の負担の上限につき,改正相続法3 遺留分侵害請求3を参照。)

法定相続分説によると,上記の結果のように,遺贈を受けたBが遺贈を受けていないCよりも最終的な取得額が少なくなるという逆転現象が起きてしまうのです。

具体的相続分説を採用した場合

[遺産分割]

上記と一緒。

[遺留分]

Aの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/2-666万6667=1833万3333

Bの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/4-1000万-=250万

Cの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/4-333万3333=916万6667

[結果]

Aの最終的な取得額=666万6667+1833万3333=2500万

Bの最終的な取得額=1000万+250万=1250万

Cの最終的な取得額=333万3333+916万6667=1250万

Dの最終的な取得額=8000万-1833万3333-250万-916万6667=5000万

このように,具体的相続分説によると,上記の結果のように,遺贈を受けたBが遺贈を受けていないCよりも最終的な取得額が少なくなるという逆転現象が起きない。

 

なお,上記の計算方法は遺産分割が終了した場合でも変わりません。遺産分割が終了した場合については,現実に分割された内容を前提に控除すべきという考え方もありましたが,これだと,遺産分割手続きの進行状況如何によって遺留分侵害額が変動し,これにより遺留分権利者に帰属した権利の内容が変動することになって相当でないと考えられたからです。

 

以上で,改正相続法の遺留分侵害額請求は終了となります。

これまでの遺留分侵害額請求のブログは以下のとおりです。

改正相続法1 遺留分侵害額請求1(民法第1046条第1項,第1047条第5項)

改正相続法2 遺留分侵害額請求2(民法第1044条第2項,第3項)

改正相続法3 遺留分侵害額請求3(民法第1047条第1項)

改正相続法3 遺留分侵害額請求3(民法第1047条第1項)

今回は改正相続法シリーズの第3回目,遺留分侵害請求3(民法第1047条第1項)です。

今回の改正部分を説明するには,遺留分侵害請求の順序の知識が前提として必要となります。

前提知識

遺留分侵害請求の順序は,遺贈→死因贈与→贈与の順番であり,複数の遺贈がなされた場合には,原則として遺贈の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担します(詳しくは,コチラを参照してください)。

 

それでは本題です。

Q 被相続人の母が死亡し,相続人は私(A)と姉(B)の2人です。母は私に1000万円の預金を遺贈し,第三者(C)に3000万円相当の土地を遺贈しました。複数の遺贈がなされた場合には,原則として遺贈の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担するのですから,私も姉からの遺留分侵害請求に対して応分の負担をしなければいけませんか。

A 受遺者等が相続人であった場合,遺留分侵害額の負担は自己の遺留分を超えた遺贈部分となります。あなたの遺留分は1000万円なので遺留分侵害請求の負担を負うことはありません。

新しい相続法では,受遺者等の遺留分侵害額の負担額は,原則として受遺者等が受け取った遺贈や贈与の目的の価額が上限となりますが,受遺者等が相続人である場合には,その価額からその相続人の遺留分の額を控除した額を上限とすると定められました(民法第1047条第1項)。

受遺者等である相続人も遺留分を有しているのでそれを保護しなければなりませんし,上記取り扱いをしないと遺留分侵害請求の循環が生じてしまい不適切だからです。

なお,上記の例ですと,

A,Bの遺留分=(1000万+3000万)×1/2×1/2=1000万

Bの遺留分侵害額=(1000万+3000万)×1/2×1/2=1000万

 

Bの遺留分侵害額は1000万ですが,Aも1000万の遺留分を有しているので,Aに対して遺留分侵害請求をすることはできずに,Cに対して全額の負担を求めることになります。

 

その他の遺留分侵害請求権の改正については以下を参考にしてください。

改正相続法1 遺留分侵害額請求1

改正相続法2 遺留分侵害額請求2

 

改正相続法2 遺留分侵害額請求2(民法第1044条第2項,第3項)

改正相続法シリーズの2回目,今回は遺留分侵害額請求2(民法第1044条第2項,第3項)です。

今回は少し難易度が高いかもしれません。

 

Q1 被相続人は父,相続人は私と弟の二人なんです。遺産は2000万円の預金なんですが,私の遺留分は2分の1×2分の1の4分の1ですから,遺留分として500万円支払ってもらえるということで間違っていませんよね?

A1 個別的遺留分が4分の1であることは正しいのですが,遺留分として500万円を支払ってもらえるかは,必要事項を確認しないとわかりません。

なんだこの回答は,答えになっていないぞと思われるかもしれませんが,この質問に対してはこう答えざるを得ません。そして実は,遺留分侵害額請求の相談を受けるときに困るのはこの質問だったりします。

最近はインターネットで情報収集されるせいか,個別的遺留分(上記の質問の4分の1)についての知識をもって相談に来られる方が意外と少なくありません(なお,個別的遺留分については,コチラを参考にしてください)。

しかし,そういう人も遺留分侵害額の計算方法についてはご存知ないようです。こういう方の多くは,

遺留分侵害額=相続開始時に被相続人が有した積極財産×個別的遺留分

と考えております。

ところが,遺留分侵害額の計算はそれほど単純ではありません。遺留分侵害額の計算式を示すと以下のようになります。

Ⅰ 遺留分侵害額=遺留分額(A)

-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額(B)

-遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(C)

+遺留分権利者が負担する債務の額(D)

そして,Aの遺留分額の計算式は以下のとおりです。

Ⅱ 遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額(a)×個別的遺留分

また,aの遺留分を算定するための財産の価額は必ずしも相続開始時に被相続人が有した積極財産に限りません。あえて計算式にすれば以下のようになります。

Ⅲ 遺留分を算定するための財産の価額=相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額(①)

+贈与財産(②)

-相続債務の全額(③)

そこで,遺留分侵害額を計算するには,まずaの遺留分を算定するための財産の価額を計算し(Ⅲ),その後に遺留分額を計算し(Ⅱ),最後に遺留分侵害額を計算する(Ⅰ)ことになります(遺留分侵害額の計算方法については,コチラも参考にしてください。)。

このように書かれても内容についてはなかなか理解されないと思いますが,単純な計算ではないことはご理解いただけると思います。

加えていえば,後述するように②の贈与財産には加算できる贈与財産と加算できない贈与財産がありますので,相談者のケースはどうなのか,加算できる贈与財産があるのか等を聞き取らないといけないのです。

実際に遺留分侵害額の計算は我々でも厄介なものです。ところが,多くの方はそんなことは知りませんから,前述の質問をされるわけです。そして私から前述のようによくお話を伺って必要事項を確認しないとわかりませんといわれると,怪訝な,大丈夫なのこの先生?という顔をされます。結果,私も困ったなと思うということになります。

 

Q2 遺留分を算定するための財産の価額(上記a)に加算される贈与財産(上記②)には,相続人への贈与も全て加算されるのですか?

A2 相続人への贈与は,(ⅰ)特別受益となる贈与であり,かつ(ⅱ)原則として相続開始前の10年間にされたものに限り加算されます(民法第1044条第2項,第3項)。

aの遺留分を算定するための財産の価額とは,いうなれば遺留分を計算するための被相続人の財産のパイ(π)といえます。

法は,相続時に存在する積極財産のみならず,本来は相続時の積極財産であったものもパイに含めることにしています。

このように考えずに相続時に存在する積極財産のみをパイとしますと,被相続人が生前に遺留分権利者を害するために自己の財産をどんどん贈与してしまった場合,相続時には積極財産がほとんどなくなってしまうので,遺留分はとても小さくなってしまいます。そのような結果は,遺留分権利者に酷といえますし,ひいては遺留分制度が無意味となってしまいます。

そのため相続前になされた贈与財産もパイに含めるのですが,贈与財産であればなんでもパイに含める,加算するというわけではありません。

法は,贈与の相手方が第三者である場合と相続人である場合にわけて加算する贈与の範囲を定めています。

まず,贈与の相手方が相続人以外の第三者であった場合,原則として相続開始前の1年間にされた贈与のみが加算されることになります。もっとも,遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与された場合には,相続開始の1年前の日より前にした贈与も加算されます。

次に,贈与の相手方が相続人であった場合は,(ⅰ)特別受益となる贈与であり,かつ,(ⅱ)原則として相続開始前の10年間にされたものに限り加算されることになります。もっとも,遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与された場合には,相続開始の10年前の日より前にした贈与も加算されます。

改正前は,贈与の相手方が相続人であった場合,判例により特別受益であれば期限なく加算されることになっていました。このようにしませんと,各相続人が被相続人から受けた財産の額に大きな格差がある場合にも特別受益の時期いかんによってこれを是正することができなくなってしまうからです。相続人間の実質的公平を重視した考え方です。

しかし,この判例の考え方によると,被相続人が相続開始時の何十年も前にした相続人に対する贈与の存在によって,第三者である受遺者又は受贈者が受ける侵害額請求の範囲が大きく変わることになりますが,第三者である受遺者又は受贈者は,相続人に対する古い贈与の存在を知りえないのが通常であるため,第三者である受遺者又は受贈者に不測の損害を与え,法的安定性を害するおそれがありました。

そこで,新しい相続法では,上記相続人間の実質的公平と受遺者等の法的安定性という相反する2つの要請の調和の観点から,加算する相続人への贈与を相続開始前の10年間に限ることにしました。これは実務上大きな改正です。

こういわれても難しくその違いがピンとこないかもしれませんが,次の事例を見ていただくと,改正の意味の大きさを理解していただけると思います。

相続人は,被相続人の妻A(法定相続分は2分の1),長男B(法定相続分は4分の1),次男C(法定相続分は4分の1)の3人です。

被相続人は,遺言で唯一の財産であった6000万円相当の土地を第三者Dに遺贈をしました。相続時に借金はありませんでした。

また,長男Bには30年前に1億円の生前贈与をしておりました。

遺産分割はしておりません。

この事例で第三者Dへの遺留分侵害請求をする場合は以下のようになります。

改正前

Aの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/2=4000万

Bの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/4-1億=-8000万

Cの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/4=2000万

Aの最終的な取得額=4000万

Bの最終的な取得額=1億(侵害額請求なし)

Cの最終的な取得額=2000万

Dの最終的な取得額=0円(すべて侵害額請求される)

改正後

Aの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/2=1500万

Bの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/4-1億=-9250万

Cの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/4=750万

Aの最終的な取得額=1500万

Bの最終的な取得額=1億(侵害額請求なし)

Cの最終的な取得額=750万

Dの最終的な取得額=3750万(6000万-1500万-750万)

 

改正前ですと,30年前のBへの特別受益が加算される結果,最終的な取得額は相続人間では2000万~1億の幅でとどまった一方で,受遺者Dは0円となってしまいました。

しかし,改正後は,30年前のBの特別受益が加算されない結果,最終的な取得額は相続人間では750万~1億の幅にまで拡大してしまいましたが,一方で受遺者Dは3750万を確保できることになりました。

相続人間の実質的公平を後退させつつも受遺者等の法的安定性を確保しようとした改正法の趣旨がこのような結果となって表れることになります。

 

改正相続法1 遺留分侵害額請求1

 

改正相続法1 遺留分侵害額請求1(民法第1046条第1項,第1047条第5項)

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が平成30年7月13日に公布され,原則として令和元年7月1日から施行されました。これにより相続法が改正されることになりました。

相続は身近な法律問題ですので,今回の改正は多くの方に影響を及ぼすものといえます。しかし,改正されてからあまり日が経っていないせいか,インターネットを見ても正確な情報を収集することが難しい状況にあるようです。

そこで,新しい相続法についての正確な知識,情報をブログの中でお伝えしたいと思います。

もっとも,改正相続法を網羅的に解説するのではなく,私なりに実務上重要だなと思う部分についてブログで紹介したいと思っております。また,改正部分に特化することなく,相続法に関して伝えたい内容についてもできる限り紹介していきたいと思います。

記念すべき改正相続法シリーズの1回目は遺留分侵害額請求1(民法第1046条第1項,第1047条第5項)です。

 

まずは前提知識から

Q 遺留分とはなんですか。

A 遺留分とは,被相続人の財産の中で,法律上その取得が一定の相続人に留保されていて,被相続人による自由な処分(贈与・遺贈)に制限が加えられている利益のことをいいます。

例えば,被相続人が相続人A・Bの内のAに遺産全てを相続させると遺言したとします。

本来,自分の遺産をどう処分しようが被相続人の自由なのですが,相続人Bは被相続人が死んだら遺産の一部をもらえるはずと期待するのが一般でしょう。

法はこの期待を保護するために,遺留分権利者に一定の利益すなわち遺留分を認めています。

その他の遺留分侵害額請求に関する知識はコチラを参考にしてください。

 

それでは本題です。

Q1 遺留分侵害額請求をするとお金を払ってもらえるの?

A1 はい,お金を払ってもらえます。

いきなり変な質問だと思われるかもしれませんが,実はコレが遺留分制度の最大の改正部分です。

といいますのは,相続人Aに土地を遺贈させるという遺言があり,遺留分権利者のBがその遺贈は自分の遺留分を侵害しているとして遺留分侵害額請求をした場合,改正前ですと,Bは当該土地の持分を取得することになっていました。(ちなみに,改正前の遺留分侵害額請求の名前は遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)という名前でした。)

取得するのは遺贈・贈与の目的物の持分であり,お金をはらってもらうという債権ではありませんでした。お金が欲しいときには価額弁償というかたちでAに支払ってもらっていました。

ところが,今回の相続法改正により,遺留分を侵害されたBはAに対してお金を支払えという債権を取得することになりました。

逆にいうと,先ほどの例でBは遺留分侵害額請求をしても土地の持分は取得できない,取得できるのはあくまでもお金だけということになります。

なぜこのように遺留分侵害額請求の行使により発生した権利が金銭債権化したのかといいますと,事業承継を円滑に行うためと,共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生じないようにするためです。

個人事業主が長男Aに事業を承継してもらうために遺産の殆どを占める工場の土地,建物,機械等の事業用財産をAに相続させるという遺言を書いたとき,次男Bが遺留分侵害額請求をすると,改正前ですと工場の土地等についてA・Bの共有状態が生じてしまいますが,これですと事業用財産を担保にお金を借りるにもBの協力が必要となり,事業承継が円滑にすすみません。

円滑な事業承継は日本経済にとって喫緊の課題ですから,遺留分侵害額請求によって事業承継がすすまないというのでは困るわけです。そこで,今回の改正によって遺留分侵害額請求の行使によって発生した権利を金銭債権化したということになります。

 

Q2 遺留分侵害額請求を受けたんだけど,突然のことでお金を用意できないです。どうしたらいいのですか?,また請求を受けたときから遅延損害金を支払わなければならないの?

A2 裁判所に相当の期限を許与してもらうことで,支払時期を伸ばしてもらうことができますし,期限までは遅延損害金は発生しません(1047条5項)。

 

遺留分侵害額請求の行使によって発生した権利の金銭債権化によって受遺者又は受贈者は遺留分権利者にお金を支払わなければなりませんが,直ちにはお金を用意できないことがありえます。そのようなときに,お金を支払えないからといって遅延損害金が発生してしまうと受遺者又は受贈者にとって酷な場合がありえます。

そこで新しい相続法では,受遺者又は受贈者の負担が過大なものとならないようにするため,裁判所に請求して支払い期限を相当期間猶予してもらえるという期限の許与の制度を新設することにしました。

この相当の期限の許与制度は遺留分侵害額請求権の行使によって発生した権利の金銭債権化とセットということがいえるでしょう。

離婚と税金 2

前回に引き続き,離婚と税金についてお話します。

前回は,財産分与を受ける者の税金問題についてお話しましたが,今回は,財産分与をする側の税金問題です。

A1 財産分与をすると譲渡所得税がかかるのですか。

Q1 財産分与をする資産の種類によっては,譲渡所得税がかかる場合があります。

所得税法33条1項の「資産の譲渡」は,有償無償を問わず,資産を移転させる一切の行為をいうものとされており,財産分与としてなされた不動産譲渡に対する譲渡所得課税を適法とした裁判例もあります。

そのため,分与する資産の時価が,その資産を取得した時の価額より高くなっていれば,譲渡所得税や住民税が課されることになります。

なお,逆に,分与時の時価がその資産を取得した価額よりも下がっていれば所得税が課されることはありません。

 

 

A2 譲渡所得税がかかる資産の種類にはどのようなものがあるのですか。

Q2 不動産,書画骨董,絵画,宝石,自動車,船舶,機械器具,ゴルフ会員権,特許権,著作権等がありますが,金銭,貸付金,売掛金などの金銭債権はあたりません。

現物給付をする際には譲渡所得税が発生する場合がありますが,金銭給付をする際には譲渡所得税は発生しませんので,財産分与をする側にとっては,金銭給付をもって財産分与の給付とした方が,税法上有利といえます。

おかげさまで3周年

本年2月1日を持ちまして,弊事務所もおかげさまで3周年を迎えました。

企業による生存率は,1年で50%,3年で50%,5年で15%,10年で3%,30年になると0.02%ということを聞いたことがあります。

もちろん,業種によっても異なり,飲食店ですと,1年で70%,3年で30%,5年で10%,10年で5%なんだそうです。

弁護士業界はそれほど厳しくはないのかもしれませんが,楽観は決してできないというのが業界内の多数意見だと思います。

ある企業の社長さんから,先生少なくとも3年は続けなくては,3年続けたらそのまま続けられるよと言われたことがございます。

是非,その社長さんのお言葉通りになってもらいたいと思います。

3年経ちますと,殺風景と言われた相談室に絵画も飾られるようになります。

 

志村一男先生の「河原」。

多摩川の夕暮れ時,河の水と葦が夕日に照らされている,美しい夕映の情景が描かれております。

忙しさに追われる日々は相変わらずですが,夕日を眺める気持ちの余裕ぐらいは持ちたいなと思います。

今後も,柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様に支えていただきながら,良質な法的サービスを提供することで,地元柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様に貢献していきたいと思います。

4年目も,石塚総合法律事務所をどうぞ宜しくお願いいたします。