石塚弁護士ブログ

改正相続法1 遺留分侵害額請求1(民法第1046条第1項,第1047条第5項)

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が平成30年7月13日に公布され,原則として令和元年7月1日から施行されました。これにより相続法が改正されることになりました。

相続は身近な法律問題ですので,今回の改正は多くの方に影響を及ぼすものといえます。しかし,改正されてからあまり日が経っていないせいか,インターネットを見ても正確な情報を収集することが難しい状況にあるようです。

そこで,新しい相続法についての正確な知識,情報をブログの中でお伝えしたいと思います。

もっとも,改正相続法を網羅的に解説するのではなく,私なりに実務上重要だなと思う部分についてブログで紹介したいと思っております。また,改正部分に特化することなく,相続法に関して伝えたい内容についてもできる限り紹介していきたいと思います。

記念すべき改正相続法シリーズの1回目は遺留分侵害額請求1(民法第1046条第1項,第1047条第5項)です。

 

まずは前提知識から

Q 遺留分とはなんですか。

A 遺留分とは,被相続人の財産の中で,法律上その取得が一定の相続人に留保されていて,被相続人による自由な処分(贈与・遺贈)に制限が加えられている利益のことをいいます。

例えば,被相続人が相続人A・Bの内のAに遺産全てを相続させると遺言したとします。

本来,自分の遺産をどう処分しようが被相続人の自由なのですが,相続人Bは被相続人が死んだら遺産の一部をもらえるはずと期待するのが一般でしょう。

法はこの期待を保護するために,遺留分権利者に一定の利益すなわち遺留分を認めています。

その他の遺留分侵害額請求に関する知識はコチラを参考にしてください。

 

それでは本題です。

Q1 遺留分侵害額請求をするとお金を払ってもらえるの?

A1 はい,お金を払ってもらえます。

いきなり変な質問だと思われるかもしれませんが,実はコレが遺留分制度の最大の改正部分です。

といいますのは,相続人Aに土地を遺贈させるという遺言があり,遺留分権利者のBがその遺贈は自分の遺留分を侵害しているとして遺留分侵害額請求をした場合,改正前ですと,Bは当該土地の持分を取得することになっていました。(ちなみに,改正前の遺留分侵害額請求の名前は遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)という名前でした。)

取得するのは遺贈・贈与の目的物の持分であり,お金をはらってもらうという債権ではありませんでした。お金が欲しいときには価額弁償というかたちでAに支払ってもらっていました。

ところが,今回の相続法改正により,遺留分を侵害されたBはAに対してお金を支払えという債権を取得することになりました。

逆にいうと,先ほどの例でBは遺留分侵害額請求をしても土地の持分は取得できない,取得できるのはあくまでもお金だけということになります。

なぜこのように遺留分侵害額請求の行使により発生した権利が金銭債権化したのかといいますと,事業承継を円滑に行うためと,共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生じないようにするためです。

個人事業主が長男Aに事業を承継してもらうために遺産の殆どを占める工場の土地,建物,機械等の事業用財産をAに相続させるという遺言を書いたとき,次男Bが遺留分侵害額請求をすると,改正前ですと工場の土地等についてA・Bの共有状態が生じてしまいますが,これですと事業用財産を担保にお金を借りるにもBの協力が必要となり,事業承継が円滑にすすみません。

円滑な事業承継は日本経済にとって喫緊の課題ですから,遺留分侵害額請求によって事業承継がすすまないというのでは困るわけです。そこで,今回の改正によって遺留分侵害額請求の行使によって発生した権利を金銭債権化したということになります。

 

Q2 遺留分侵害額請求を受けたんだけど,突然のことでお金を用意できないです。どうしたらいいのですか?,また請求を受けたときから遅延損害金を支払わなければならないの?

A2 裁判所に相当の期限を許与してもらうことで,支払時期を伸ばしてもらうことができますし,期限までは遅延損害金は発生しません(1047条5項)。

 

遺留分侵害額請求の行使によって発生した権利の金銭債権化によって受遺者又は受贈者は遺留分権利者にお金を支払わなければなりませんが,直ちにはお金を用意できないことがありえます。そのようなときに,お金を支払えないからといって遅延損害金が発生してしまうと受遺者又は受贈者にとって酷な場合がありえます。

そこで新しい相続法では,受遺者又は受贈者の負担が過大なものとならないようにするため,裁判所に請求して支払い期限を相当期間猶予してもらえるという期限の許与の制度を新設することにしました。

この相当の期限の許与制度は遺留分侵害額請求権の行使によって発生した権利の金銭債権化とセットということがいえるでしょう。

この記事を書いた人

弁護士 石塚 政人
千葉県柏市出身
2017年 千葉県柏市に石塚総合法律事務所開所

柏市及び千葉県の皆様が、相談して良かったと思える弁護士を目指し、相談者の今後の人生にとって何が最もいい選択か、より良い解決の為にアドバイスさせて頂きます。
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