石塚弁護士ブログ

改正相続法2 遺留分侵害額請求2(民法第1044条第2項,第3項)

改正相続法シリーズの2回目,今回は遺留分侵害額請求2(民法第1044条第2項,第3項)です。

今回は少し難易度が高いかもしれません。

 

Q1 被相続人は父,相続人は私と弟の二人なんです。遺産は2000万円の預金なんですが,私の遺留分は2分の1×2分の1の4分の1ですから,遺留分として500万円支払ってもらえるということで間違っていませんよね?

A1 個別的遺留分が4分の1であることは正しいのですが,遺留分として500万円を支払ってもらえるかは,必要事項を確認しないとわかりません。

なんだこの回答は,答えになっていないぞと思われるかもしれませんが,この質問に対してはこう答えざるを得ません。そして実は,遺留分侵害額請求の相談を受けるときに困るのはこの質問だったりします。

最近はインターネットで情報収集されるせいか,個別的遺留分(上記の質問の4分の1)についての知識をもって相談に来られる方が意外と少なくありません(なお,個別的遺留分については,コチラを参考にしてください)。

しかし,そういう人も遺留分侵害額の計算方法についてはご存知ないようです。こういう方の多くは,

遺留分侵害額=相続開始時に被相続人が有した積極財産×個別的遺留分

と考えております。

ところが,遺留分侵害額の計算はそれほど単純ではありません。遺留分侵害額の計算式を示すと以下のようになります。

Ⅰ 遺留分侵害額=遺留分額(A)

-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額(B)

-遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(C)

+遺留分権利者が負担する債務の額(D)

そして,Aの遺留分額の計算式は以下のとおりです。

Ⅱ 遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額(a)×個別的遺留分

また,aの遺留分を算定するための財産の価額は必ずしも相続開始時に被相続人が有した積極財産に限りません。あえて計算式にすれば以下のようになります。

Ⅲ 遺留分を算定するための財産の価額=相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額(①)

+贈与財産(②)

-相続債務の全額(③)

そこで,遺留分侵害額を計算するには,まずaの遺留分を算定するための財産の価額を計算し(Ⅲ),その後に遺留分額を計算し(Ⅱ),最後に遺留分侵害額を計算する(Ⅰ)ことになります(遺留分侵害額の計算方法については,コチラも参考にしてください。)。

このように書かれても内容についてはなかなか理解されないと思いますが,単純な計算ではないことはご理解いただけると思います。

加えていえば,後述するように②の贈与財産には加算できる贈与財産と加算できない贈与財産がありますので,相談者のケースはどうなのか,加算できる贈与財産があるのか等を聞き取らないといけないのです。

実際に遺留分侵害額の計算は我々でも厄介なものです。ところが,多くの方はそんなことは知りませんから,前述の質問をされるわけです。そして私から前述のようによくお話を伺って必要事項を確認しないとわかりませんといわれると,怪訝な,大丈夫なのこの先生?という顔をされます。結果,私も困ったなと思うということになります。

 

Q2 遺留分を算定するための財産の価額(上記a)に加算される贈与財産(上記②)には,相続人への贈与も全て加算されるのですか?

A2 相続人への贈与は,(ⅰ)特別受益となる贈与であり,かつ(ⅱ)原則として相続開始前の10年間にされたものに限り加算されます(民法第1044条第2項,第3項)。

aの遺留分を算定するための財産の価額とは,いうなれば遺留分を計算するための被相続人の財産のパイ(π)といえます。

法は,相続時に存在する積極財産のみならず,本来は相続時の積極財産であったものもパイに含めることにしています。

このように考えずに相続時に存在する積極財産のみをパイとしますと,被相続人が生前に遺留分権利者を害するために自己の財産をどんどん贈与してしまった場合,相続時には積極財産がほとんどなくなってしまうので,遺留分はとても小さくなってしまいます。そのような結果は,遺留分権利者に酷といえますし,ひいては遺留分制度が無意味となってしまいます。

そのため相続前になされた贈与財産もパイに含めるのですが,贈与財産であればなんでもパイに含める,加算するというわけではありません。

法は,贈与の相手方が第三者である場合と相続人である場合にわけて加算する贈与の範囲を定めています。

まず,贈与の相手方が相続人以外の第三者であった場合,原則として相続開始前の1年間にされた贈与のみが加算されることになります。もっとも,遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与された場合には,相続開始の1年前の日より前にした贈与も加算されます。

次に,贈与の相手方が相続人であった場合は,(ⅰ)特別受益となる贈与であり,かつ,(ⅱ)原則として相続開始前の10年間にされたものに限り加算されることになります。もっとも,遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与された場合には,相続開始の10年前の日より前にした贈与も加算されます。

改正前は,贈与の相手方が相続人であった場合,判例により特別受益であれば期限なく加算されることになっていました。このようにしませんと,各相続人が被相続人から受けた財産の額に大きな格差がある場合にも特別受益の時期いかんによってこれを是正することができなくなってしまうからです。相続人間の実質的公平を重視した考え方です。

しかし,この判例の考え方によると,被相続人が相続開始時の何十年も前にした相続人に対する贈与の存在によって,第三者である受遺者又は受贈者が受ける侵害額請求の範囲が大きく変わることになりますが,第三者である受遺者又は受贈者は,相続人に対する古い贈与の存在を知りえないのが通常であるため,第三者である受遺者又は受贈者に不測の損害を与え,法的安定性を害するおそれがありました。

そこで,新しい相続法では,上記相続人間の実質的公平と受遺者等の法的安定性という相反する2つの要請の調和の観点から,加算する相続人への贈与を相続開始前の10年間に限ることにしました。これは実務上大きな改正です。

こういわれても難しくその違いがピンとこないかもしれませんが,次の事例を見ていただくと,改正の意味の大きさを理解していただけると思います。

相続人は,被相続人の妻A(法定相続分は2分の1),長男B(法定相続分は4分の1),次男C(法定相続分は4分の1)の3人です。

被相続人は,遺言で唯一の財産であった6000万円相当の土地を第三者Dに遺贈をしました。相続時に借金はありませんでした。

また,長男Bには30年前に1億円の生前贈与をしておりました。

遺産分割はしておりません。

この事例で第三者Dへの遺留分侵害請求をする場合は以下のようになります。

改正前

Aの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/2=4000万

Bの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/4-1億=-8000万

Cの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/4=2000万

Aの最終的な取得額=4000万

Bの最終的な取得額=1億(侵害額請求なし)

Cの最終的な取得額=2000万

Dの最終的な取得額=0円(すべて侵害額請求される)

改正後

Aの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/2=1500万

Bの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/4-1億=-9250万

Cの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/4=750万

Aの最終的な取得額=1500万

Bの最終的な取得額=1億(侵害額請求なし)

Cの最終的な取得額=750万

Dの最終的な取得額=3750万(6000万-1500万-750万)

 

改正前ですと,30年前のBへの特別受益が加算される結果,最終的な取得額は相続人間では2000万~1億の幅でとどまった一方で,受遺者Dは0円となってしまいました。

しかし,改正後は,30年前のBの特別受益が加算されない結果,最終的な取得額は相続人間では750万~1億の幅にまで拡大してしまいましたが,一方で受遺者Dは3750万を確保できることになりました。

相続人間の実質的公平を後退させつつも受遺者等の法的安定性を確保しようとした改正法の趣旨がこのような結果となって表れることになります。

 

改正相続法1 遺留分侵害額請求1