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改正相続法16 配偶者居住権3

今回は、改正相続法16 配偶者居住権3です。

これまでは、配偶者居住権の成立要件、配偶者居住権の内容について説明してきました。

今回は、配偶者居住権の消滅について説明します。

 

Q1 長年父に連れ添っていた母が、父の相続時に私が相続した実家について、配偶者居住権を主張することになりました。この配偶者居住権はいつまで存続するのですか。

A1 配偶者居住権は、特段の定めのない限り配偶者が死亡する時までとなります。もっとも、遺産分割協議時や審判時等において、存続期間を定め場合はその期間が到来するまでとなります。

 

配偶者居住権の消滅原因は、①存続期間の満了(第1036条、第597条第1項)、②居住建物の所有者による消滅請求(第1032条第4項)、③配偶者の死亡(第1036条、第597条第3項)、④居住建物の全部滅失当(第1036条、第616条の2)等があります。

 

 

Q2 遺産分割において配偶者居住権の存続期間を10年と定めたのですが、10年経過後もやはり自宅に住み続けたいと思っています。配偶者居住権の延長をすることはできるでしょうか。

A2 残念ながら配偶者居住権の延長は認められていません。存続期間満了後も自宅に住み続けたい場合は、自宅を相続した所有者との間に使用貸借契約や賃貸借契約を締結する必要があります。

配偶者居住権の評価額は、その存続期間によっても変わります。長ければ長いほどその評価額は高いことになります。存続期間を10年として配偶者居住権を評価したのに、延長や更新を配偶者居住権を適切に評価することができなくなってしまいます。そのため、延長や更新はみとめられておりません。

 

 

Q3 配偶者が自宅を勝手に第三者に貸していることがわかりました。配偶者居住権を消滅させるにはどうしたらいいですか。

A3 配偶者に対して相当の期間を定めた是正の催告を行って下さい。その期間内に是正がなされないときに、拝具者居住権を消滅させる旨の請求をしてください。

配偶者居住権は所有者の同意なくして自宅を第三者に貸すことは許されていません。そのため、勝手に第三者に貸していることが分かった場合には、配偶者居住権の消滅請求が問題となります。

もっとも、第三者に貸しているという事実だけですぐに消滅請求をすることはできません。法は、配偶者に対して是正の機会を与えております。配偶者が是正の機会があったのにもかかわらず是正をしなかった場合に消滅請求を認めることにしております。

この是正の機会が与えられているところが、配偶者短期居住権と異なるところになります。

 

配偶者居住権に関するその他の知識はコチラです。

改正相続法14 配偶者居住権1

改正相続法16 配偶者居住権2

改正相続法15 配偶者居住権2

今回は、配偶者居住権2です。

前回は、配偶者居住権の成立要件と対抗要件について説明しました。

今回は、配偶者居住権の権利の内容についてご説明します。

 

 

Q1 私は遺産分割協議により亡くなった夫の建物について配偶者居住権を有することになりました。そのあとに、自分で住む家を借りたので、もう夫の建物に住む必要がなくなりました。配偶者居住権を友人に譲ってもいいでしょうか。

A1 配偶者居住権を譲渡することはできませんので、ご友人に譲渡することはできません。

配偶者居住権は、当該配偶者に一身専属的に帰属する権利ですので、これを第三者に譲渡することはできません(第1032条第2項)。

 

 

Q2 Q1の例で、配偶者居住権を友人に譲渡しないにしても、私の一存で夫の住んでいた建物に友人を住まわせることはできませんか。

A2 旦那さんの建物の所有者の承諾を得なければ、ご友人を住まわせることはできません。

 

配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用又は収益をさせることはできないので、 配偶者の一存で第三者に居住建物の使用を認めることはできません。

もっとも、配偶者以外の第三者が居住することが一切できないわけではありません。あくまでも、配偶者の家族や家事使用人と同居することは当然に予定されているため、たとえば配偶者の妹を住まわせる場合には、居住建物の所有者の承諾はいらないと思われます。

 

 

Q3 夫が亡くなり、夫の建物については息子が相続をし、私が配偶者居住権を取得することになりました。夫の建物も古くなり、雨漏りがするため屋根の一部を補修する必要があります。私の一存で屋根を補修してもいいのでしょうか。

A3 どちらが補修するのかについては、まず配偶者が補修することができ(第1033条第1項)、居住建物の所有者は配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときに修繕をすることができる(同条第2項)とされていますので、屋根の一部の補修は配偶者であるあなたの一存で補修しても構いません。もっとも、補修が必要な事態(雨漏り)になっていることを居住建物の所有者に伝える必要があります。

 

居住建物の修繕について最も利害関係を有しているのは配偶者であることから、第一次的には配偶者に修繕をさせることにし、居住建物の所有者には、配偶者が修繕をしない場合に限り、修繕権が与えられています。

修繕が必要な場合に、居住建物について権利を主張する者(居住建物の所有者等)に、修繕が必要であることを伝えなければならないとされているのは、実際に居住建物に住んでいない所有者に修繕の機会を付与するためです。

なお、配偶者居住権を有する配偶者は居住建物の修繕権は有していますが、居住建物を増改築(建て増し、建て替え、移築、大規模なリフォームなど)をする場合には、居住建物の所有者の承諾を得なければなりません(第1032条第3項)。増改築と修繕の違いについては、微妙なケースがありますので注意が必要です。

 

 

Q4 Q3の例で、屋根の補修をした場合、屋根の補修代は私と息子のどちらが負担するべきなのでしょうか。

A4 配偶者は居住建物について、通常の必要費を負担することになります(第1033条第1項)。屋根の一部の補修代は通常の必要費といえると思いますので、配偶者であるあなたが負担をするべきでしょう。

配偶者は、ただで物を借りている使用借主と同様の立場にあると考えられていることから、居住建物についての通常の必要費は配偶者が負担するべきとされています。

屋根の一部の補修代は、居住建物のの保存に必要な修繕費ですので、通常の必要費にあたると考えられるため、屋根の一部の補修代は配偶者が負担するべき、ということになります。

 

 

Q5 Q3の例で、居住建物にかかる固定資産税は、私と息子のどちらが支払うべきなのでしょうか。

A5 居住建物の固定資産税の納税義務者は息子さんですが、固定資産税の負担を負うのは配偶者であるあなたということになります。

固定資産税の納税義務者は固定資産の所有者とされている以上、配偶者居住権が設定されているとしても、居住建物の固定資産税の納税義務者は居住建物の所有者です(上記の具定例でいう「息子」)。

しかし、配偶者は通常の必要費を負担するべきとされているところ、この通常の必要費については居住建物やその敷地の固定資産税等が含まれるとされているから、結果として、居住建物の固定資産税は配偶者が負担するべきことになります。

そこで、居住建物の所有者は納税義務者として固定資産税を支払うことになりますが、その固定資産税は配偶者が負担をするべきものなので、固定資産税を支払った後に、配偶者に対して納付した分を支払えと求償することができるとされています。

 

配偶者居住権についてのその他の説明についてはコチラも参考にしてください。

改正相続法14 配偶者居住権1

 

 

改正相続法14 配偶者居住権1

今回は、改正相続法14 配偶者居住権1です。

配偶者居住権は、相続法の改正により新設された制度です。

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が被相続人所有の建物に居住していた場合、被相続人死亡後も同建物の居住するなどの使用収益権を認める制度です。

長年連れ添った夫を亡くした妻が、夫死亡後も住み慣れた家で生活をしたいと考えるのは無理からぬことです。改正前では、妻のその思いを実現するためには、妻が家を相続するか、家を相続した相続人と賃貸借契約を結ばなくてはなりませんでした。

しかし、妻が家を相続すると家は高額なことが多いため、夫のその他の遺産(例えば預貯金)を取得することができず、生活に困ってしまうことになりかねません。また、家を相続した人が必ず賃貸借契約を締結してくれるか定かではありません。

そのため、配偶者居住権という居住建物の使用収益権限という権利を創設することになりました。配偶者居住権は、使用収益権限のみであり処分権限がありませんから、その金銭的評価は低くなるため、配偶者が同権利を取得しても、その他の遺産を取得できる場合が多くなります。

 

Q1 配偶者居住権が認められるための要件はなんですか。

A1 配偶者居住権の成立要件は、①配偶者が相続開始のときに被相続人所有の建物に居住していたこと、②その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、又は死因贈与がなされたことです。

配偶者居住権が認められるには被相続人が所有した建物であることを要しますから、被相続人が賃貸で借りていた建物については配偶者居住権は成立しません。

また、配偶者が相続開始時に入院をして被相続人が所有していた建物で暮らしていなかったとしても、「居住していた」つまり、生活の本拠地としていたと評価できれば配偶者居住権は成立することができます。

 

 

Q2 私と亡くなった夫とは籍はいれていない事実婚でしたが、30年も一緒に暮らしていました。内縁の妻である私も配偶者居住権を取得できますか。

A2 配偶者居住権が認められる「配偶者」とは法律婚における配偶者をいい、内縁の配偶者は含まれませんので、内縁の妻は配偶者居住権を取得することはできません。

内縁の配偶者が含まれない理由としては、内縁の配偶者はそもそも相続権を有しないことや、内縁の配偶者も含まれるとすると、当該人物が内縁の配偶者にあたるか否かをめぐって紛争が複雑化、長期化してしてしまいますが、それではいつまでたっても遺産分割協議が終わらないため望ましくないことが挙げられます。

 

 

Q3 亡くなった主人の遺産分割協議の結果、私は配偶者居住権を取得しました。ところが、主人の家を相続した息子が第三者Yに勝手に家を売却してしまいました。私は、Yに配偶者居住権を主張して、主人の家に住み続けることができますか。

A3 配偶者居住権をYに主張するためには、配偶者居住権の設定の登記をしなければなりません(第1031条第2項、第605条)。そのため、Yがご主人の建物の所有権移転登記を取得するまえに、配偶者居住権の設定の登記を取得していれば、ご主人の家に住み続けることができます。

配偶者居住権を第三者に対抗するには配偶者居住権の設定の登記が必要となります。なお、建物の賃借権と異なり、居住建物の引渡しは対抗要件とはなりませんので注意が必要です。

 

 

おかげさまで5周年

本年2月1日を持ちまして,弊事務所もおかげさまで5周年を迎えました。

3周年のときもお伝えしましたように、企業による生存率は5年で15%ということですから、弊事務所も15%内に入ることができたということでしょうか。

3周年から5周年を迎えるまでの間、コロナ禍により私たちの経済生活はずいぶんと不安定なものとなりましたので、5周年を無事迎えられたことにつきましては格別な思いがございます。

これもひとえに、柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様のご厚意によるものと、感謝に堪えません。

 

 

 

 

東山魁夷先生の「若葉の径」。

澄んだ空気をゆっくり吸って、新緑を眺めながら木漏れ日の径を歩く、

そんな心穏やかな、幸せしかない空気感といいますかイメージを、絵を眺めることで感じてもらえればと思い、相談室に飾っております。

 

今後も,柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様に支えていただきながら,良質な法的サービスを提供することで,地元柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様に貢献していきたいと思います。

6年目も,石塚総合法律事務所をどうぞ宜しくお願いいたします。

改正相続法13 相続による権利の承継と対抗要件主義2(民法第899の2条)

今回は、相続による権利の承継と対抗要件主義2(民法第899の2条)です。

 

前回にもお伝えしたように、相続による権利の承継についても対抗要件主義が採用されることになりました。

そして、対抗要件主義は預貯金などの債権の相続についても及びますので、自己の法定相続分を超えて債権を相続した者は法定相続分を超えた部分を債務者に対抗するには、対抗要件を備える必要があります。

問題となるのは、ここでいう対抗要件の具体的な方法です。

前提として、債権の譲受人が債務者に自己の債権の取得を対抗するには、債権の「譲渡人」の債務者への通知か、債務者からの承諾が必要であり、債権の「譲受人」の債務者への通知は対抗要件にはならないとされています。債権譲渡について不利益を負う者からの通知によってはじめて債務者は債権譲渡が本当になされたと信じることができるからです。債権譲渡について利益を負う者が自分が譲渡を受けたと述べても債務者は本当かわからないので、譲受人からの通知は対抗要件にはなりません。

 

このことを理解していただいたうえで、本題となります。

 

Q1 私と姉の共同相続人となりました。母はYに対する貸付債権200万円を全て私に相続させるとの自筆証書遺言を書いてくれました。自己の法定相続分を超える債権の取得をYに対抗するために、姉からYに対して通知を出してほしいのですが、姉が協力してくれません。どうしたらいいですか。

A1 あなた自身が検認調書の謄本に添附された遺言書の写しを添附して債務者Yに通知をしてください。

上記のとおり、債権譲渡の対抗要件は譲渡人の債務者への通知か、債務者からの承諾となります。そして譲受人からの通知は対抗要件になりません。

しかし、譲渡人にあたる被相続人は死亡しておりますし、その相続人である共同相続人の中には遺言書の作成、内容に疑義を持つ者もおり、共同相続人全員による通知を期待することが困難な場合が少なくありません。

そのため、相続による債権の承継においても債権譲渡の対抗要件をそのまま適用すると、受益相続人は債務者に対する対抗要件を具備することができなくなってしまいます。

そこで、改正相続法は、相続による債権の承継の場合には、受益相続人の通知により対抗要件を具備することを認めることとしつつ、虚偽の通知がされることを防止するために、受益相続人の通知による場合には、その通知の際に、遺言又は遺産分割の内容を明らかにすることを要求することにして、その要件を加重することにしています。

したがいまして、相続により法定相続分を超える債権を取得した受益相続人が対抗要件を具備する方法には、①共同相続人全員(又は遺言執行者)による通知、②受益相続人が遺言又は遺産分割の内容を明らかにしてする通知、③債務者の承諾があることになります。

 

Q2 受益相続人が遺言(又は遺産分割)の内容を明らかにしてする通知には、どのような書面が考えられるでしょうか。

A2 公正証書遺言であれば、公証人によって作成された遺言書の正本又は謄本、自筆証書遺言であれば、その原本の他、家庭裁判所書記官が作成した検認調書の謄本に添附された遺言書の写しや、自筆証書遺言を保管する法務局の遺言書保管官が発行する遺言書情報証明書等が考えられるとされています。

法定相続分を超える債権を取得したことを明らかにするための書面については、いくつか考えられます。遺言書は上記のものが考えられます。

遺産分割については、遺産分割協議書の原本や公証人作成にかかる正本又は謄本、裁判所書記官作成に係る調停調書や審判所の正本又は謄本等がこれにあたるものと考えられています。

相続による権利の承継と対抗要件主義についてはコチラも参考にしてください。

(改正相続法12 相続による権利の承継と対抗要件主義1(民法第899の2条))

 

改正相続法12 相続による権利の承継と対抗要件主義(民法第899の2条)

今回は,改正相続法12 相続による権利の承継と対抗要件主義(民法第899の2条)です。

対抗要件主義というのが理解しにくいと思います。対抗要件主義とは、権利変動を第三者に対して主張するには対抗要件を具備しなければならず、先に対抗要件を具備されてしまうと自己の権利変動を主張することができなくなってしまう考え方のことをいいます。

例えば、不動産の譲渡を例にとりますと、売買の意思表示のみで権利変動は生じますが、不動産の買主が自己の所有権を第三者に対して主張するには登記という対抗要件を備えなければならず、二重譲渡がなされて別の買主が先に登記を備えた場合には所有権の取得を主張することができなくなります。

今回の改正では、この対抗要件主義という考え方を相続による権利承継の局面でも導入することになりました。実務的にはとても大きな改正といえるところでして、今回の改正により相続時に対抗要件を速やかに備える必要が高くなったといえます。

 

 

Q1 私と妹が母の共同相続人となりました。母は遺言書で自宅を私に相続させるという遺言書を書いてくれていました。ところが、妹が自己にも相続分があるとして2分の1の持分を第三者に売却してしまいました。私は第三者に対して、遺言書を理由に妹は無権利者であるため売買は無効なので、自分が自宅の所有者であると主張することができますか。

A1 遺言書を理由に妹の売買を無効と主張することはできません。遺言書どおりに自宅を相続したと第三者に対して主張するには登記を備える必要があります。

 

今回の改正前は、登記という対抗要件を備えなくても、相続による権利取得を第三者に対抗できるというのが判例でした。

しかし、判例については、遺言の有無及び内容を知る手段を有していない相続債権者や被相続人の債務者に不測の損害を与える恐れがあるという批判がありました。また、判例のよると、遺言によって利益を受ける相続人が登記等の対抗要件を積極的に備えようとしないため、実体と登記という公示制度とが一致しない場面が増えてしまい、取引の安全や不動産登記制度という公示制度への信頼が害されるという批判もありました。

そこで、改正相続法では、相続を原因とする権利変動についても、これによって利益を受ける相続人は、登記等の対抗要件を備えなければ法定相続分を超える権利の取得を第三者に取得することができないことにしました。

そのため、遺言書によって権利を受ける相続人は急ぎ対抗要件を備える必要が出てきたことになります。

 

 

Q2 上記の例で、登記を備えないと自分の相続分についても第三者に対抗することができないのですか。

A2 いいえ、対抗することができないのは法定相続分を超える部分(上記の例で言えば自己の相続分2分1を超える部分)に限られます。

 

先の遺言書で利益を受ける相続人は、その遺言がなくても法定相続分に相当する部分は権利を取得するこができるので、当該部分は権利の競合は生じません。権利の競合が生ずるのはあくまでも法定相続分を超える部分です。

したがって、自己の法定相続分については改正前と同様に対抗要件を備えなくても相続による取得を主張できます。

 

 

Q3 私と妹が母の共同相続人となりました。母は第三者Yに100万円を貸していたのですが、遺言書でYに対する100万円の貸付債権を私に相続させると書いてくれました。ところが、妹が自己にも相続分があるとしてYに対して50万円を返すよう請求し、Yは妹に50万円を支払ってしまいました。私は第三者Yに対して、遺言書を理由に妹への支払は無効なので、自分に100万円を支払うよう求めることができますか。

A3 いいえ、できません。相続による対抗要件主義は不動産のみならず、債権、動産、有価証券などの対抗要件主義を採用しているもの全般に及ぶため、妹への支払い前に債権取得の対抗要件を備えておく必要があります。

 

相続による権利の承継に対抗要件主義が要求されるのは不動産に限られません。債権をはじめとする対抗要件主義を採用しているもの全般に及びます。

上記の例では、法定相続分を超える部分(50万円)については、債権についての対抗要件を備える必要があります。

 

 

改正相続法11 特別の寄与3(民法第1050条)

今回は,改正相続法11 特別の寄与3(民法第1050条)です。

 

今回は,特別の寄与の請求の仕方,請求する期限について説明したいと思います。

Q1 私は長年被相続人である夫の母の療養看護に勤めてきました。母が亡くなり、特別の寄与料を請求したいのですが、実際にどう請求したらいいのですか。

 

A1 特別寄与の請求は、まず相続人との協議で定めることが考えられます。協議が調わないとき、又は協議することができないときには、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができます。

 

特別の寄与を相続人との話し合いで定めることができるのであれば話し合いで定めることができます。話し合いができない場合には家庭裁判所に調停・審判を申立てることになります。

なお、協議に代わる処分手続は、遺産分割手続と独立して申立てることが可能です。ですので、特別寄与者は、遺産分割に関する事件が家庭裁判所に係属していない場合であっても、家庭裁判所に特別の寄与の額を定めることを請求することができます。

独立して申立てることができるので、別に遺産分割の調停・審判がなされている場合にも当然に特別の寄与を定める事件が併合することにはなりません。併合をするか否かは裁判所の判断によります。

 

 

Q2 共同相続人として夫A、夫の弟B(次男),C(三男)がおり、兄弟で法定相続分どおりに相続しました。特別の寄与料は誰にどのような割合で請求したらいいのですか。

A2 特別の寄与料は必ずしも共同相続人全員に請求をする必要がありませんので旦那さんのAに請求しなくても構いません。もっとも、BやCといった共同相続人は法定相続分又は指定相続分に応じて特別寄与料を負担するので、Aが負担をする分をBやCに請求することはできません。

特別の寄与制度は、被相続人の財産の維持又は増加に寄与した特別寄与者に対して、一定の範囲で相続財産を分配するのが実質的公平の理念に適うという趣旨で創設されております。

そのため、特別寄与料は本来は相続財産が負担するべき性質のものです。各相続人は特別寄与者の寄与によって相続財産を相続分に従って承継したのですから、特別寄与料の負担も相続分に応じて負担するべきことになります。

したがって、設問の例であれば、BもCも自己の相続分の3分の1を超えては特別寄与料を負担する必要はないことになります。

 

 

Q3 特別寄与料を請求しようと思っていますが、遺産分割で各相続人の相続分が定まってから請求すれば足りますよね。

A3 特別寄与料の請求手続きと遺産分割手続は別です。特別寄与料の請求は、「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月」以内及び、「相続開始の時から一年」以内という制限が設けられていますので注意してください。

特別寄与料の請求手続と遺産分割手続とは別個のものです。しかし、特別寄与料の支払義務を負うのか否か、負うとしていくら負うのかがわからないと遺産分割を成立させることがなかなか難しいことが想定されます。そうすると、特別寄与料の請求手続が終了しないとなかなか相続問題が解決しないことになってしまいます。

一方で、特別の寄与をしている場合には、被相続人の死亡の事実を容易に知りうるといえます。

そこで、法律は、特別寄与者が家庭裁判所に協議に代える処分を請求することができる期間として、「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月」以内及び、「相続開始の時から一年」以内という制限を設けております。

かかる期間を超えると特別寄与料を請求することができなくなりますから、遺産分割手続の有無にかかわらず特別寄与料は請求しなければならないことに注意をしてください。

 

特別の寄与についてはコチラも参考にしてください

(改正相続法9 特別の寄与1(民法第1050条))

(改正相続法10 特別の寄与2(民法第1050条))

 

 

改正相続法10 特別の寄与2(民法第1050条)

今回は,改正相続法10 特別の寄与2(民法第1050条)です。

 

前回の特別の寄与制度の要件をもう一度示します。

① 被相続人の親族であること

② 無償で療養看護,その他の労務を提供したこと

③ 被相続人の財産の維持又は増加があること

④ ②と③との因果関係があること

⑤ 特別の寄与と認められること

 

上記をふまえて本題です。

Q1 私は長年夫の母と同居して母の療養看護に勤めていました。母の共同相続人の弟に特別の寄与料を請求したのですが、弟は私が母から生活費を負担してもらっていたことを理由に、無償で療養看護していたとはいえないとして特別の寄与にあたらないといっては寄与料を支払ってくれません。生活費を負担してもらっていた私は特別の寄与料を請求することはできないのでしょうか。

A1 無償といえるかは個別具体的な事情によりますが、被相続人である夫の母親が要介護状態になる前から同居をして、母親が生活費を負担していたような場合であれば、療養看護後に引き続き生活費を負担してもらっていたとしても無償と判断される可能性は高いと思います。

 

特別の寄与といえるためには、療養看護が無償であることが必要です。この無償であるか否かについては、当事者の認識や、当該財産給付と労務提供の時期的、量的な対応関係等を考慮して判断されると考えられております。

ですから、被相続人から生活費をもらっていたとしても直ちに有償と判断されるわけではありません。要介護状態になる前からの生活費の負担であれば、その生活費負担は療養看護に向けられて給付されたとは言いづらいので無償と判断される可能性は高いと思います。

また、被相続人から僅かなお金をもらっている場合も、そのお金をもって療養看護の対価とはいいがたいので無償と判断される可能性は高いと思います。

もっとも、共同相続人の弟が療養看護をした者にお礼として金銭を支払っていたような場合には、1050条3項の「一切の事情」にあたるとして、特別の寄与の金額を算定する際に考慮されることになると思います。具体的には、そのお礼の金額は特別の寄与料から控除されるでしょう。

 

Q2 私は長年夫の母の療養看護に努めました。母の共同相続人の弟に特別の寄与料を請求するとして,特別の寄与料はどのように算定されるのですか。

A2 当事者間で自由に特別の寄与料を定めることができますが,当事者の協議で決まらない場合,家庭裁判所は「寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して」,特別寄与料の額を定めることになります(民法第105条第2項,第3項)。

民法第1050条第3項の「一切の事情」には,相続債務の額,被相続人による遺言の内容,各相続人の遺留分,特別寄与者が生前に受けた利益等が含まれるとされています。

特別寄与料の額の具体的な算定方法については,概ね,寄与分の制度において相続人が被相続人に対する療養看護等の労務の提供をした場合と同様の取り扱いがされることになると考えられます。

療養看護型の寄与分に関する実務の代表的な考え方によれば,寄与分の額は,第三者が同様の療養看護を行った場合における日当額に療養看護の日数を乗じた上で,これに一定の裁量割合(0.5~0.7)を乗じて算定するものとされており,特別寄与料の額の算定にあたってもこのような考え方が参考とされると思われます。

 

特別の寄与についてはコチラも参考にしてください

(改正相続法9 特別の寄与1(民法第1050条))

 

 

改正相続法9 特別の寄与1(民法第1050条)

今回は改正相続法9 特別の寄与1(民法第1050条)です。

 

改正相続法によって,今回から説明する特別の寄与制度が新設されました。

同制度によって,相続人以外の親族が被相続人に療養看護した場合も,その親族は相続人に療養看護した分(特別の寄与分)のお金を払ってくれと請求することができるようになりました。

相続人による「寄与」とは異なり,相続人ではない者の寄与なので「特別の寄与」というのでしょう。

同制度は,相続人以外の親族の貢献を正当に評価することができるようになったというプラス面はありますが,ともすれば相続問題の終局的解決が長引くというマイナス面もあるように思われ,実務家としては少し複雑な気分になります。

 

それでは本題です。

 

Q1 妻は,長年,働いてなかなか世話をしてやれなかった私に代わって,私の母の世話をしてくれていました。母が死亡した今,共同相続人の弟に対して,妻の貢献分を考慮してくれといえないものでしょうか。

A1 奥様は被相続人であるお母様にとって,相続人ではない親族なので,その療養看護が特別の寄与といえれば,弟さんにお金を支払ってくれと請求できます。

 

被相続人に対して療養看護等の貢献をした者が相続財産から分配を受けることを認める制度としては寄与分の制度があります。(寄与分の制度についての説明はコチラの「寄与分について」を参考にしてください。)

しかし,同制度は相続人にのみ認められた制度であるため,説例のような相続人の配偶者の貢献は同制度では評価できませんでした。

そのため,①準委任契約に基づく報酬・費用償還請求,②準事務管理に基づく費用償還請求,③不当利得返還請求等といった法律構成を使って,相続人以外の者の貢献を保護することが行われていました。

しかし,いずれも問題があり,同貢献に対して十分な保護が図れているとは言えない状況だったのです。

そのため,特別の寄与の制度をつくり,相続人以外の者の療養看護分について相続人に金銭請求をすることができるようになりました。

 

 

Q2 夫とは事実婚であり,婚姻届は提出していません。しかし,寝たきりになった夫を長年世話をしたのは私であり,相続人である彼の子供たちではありません。私の療養看護は特別の寄与として認められますよね。

A2 残念ですが,特別の寄与の請求権者は被相続人の親族に限られていますので,事実婚の配偶者は特別の寄与を請求することはできません。

 

特別の寄与の請求権者は,被相続人の親族(六親等内の血族,配偶者,三親等内の姻族)に限られております(親族とは何かについてはコチラの「法律上の親族」を参考にしてください。)。

特別の寄与制度については国会の審議の過程で,請求権者に事実婚や同性カップルのパートナーも含めるべきではないかと議論がありました。

しかし,例えば事実婚については,事実婚に当たるか否か自体,様々な要素を総合的に考慮して判断する必要があるため,これらも請求権者に含めるとすると,その該当性をめぐって当事者間で主張・立証が繰り返されるなどして相続を巡って紛争が複雑化,長期化する恐れがあるとして,請求権者に含まれないことになりました。

被相続人の親族は,被相続人と一定の人的関係にあるがゆえに,被相続人との間で,療養看護について報酬を与えるといった有償契約を締結することが類型的に困難であるため,特別の寄与制度で救助するというのも理由になっています。

したがって,特別の寄与制度の請求権者は,被相続人を療養看護した者であれば誰でもいいのではなく,あくまでも被相続人の親族に限られます。

 

Q3 私の妻の父(義父)は,長年,寝たきりになった私の母の医療費や施設入所費を負担してきました。母が死亡した今,義父は共同相続人の弟に対して特別の寄与を主張することができますか。

A3 義父は相続人ではない親族ですが,特別の寄与における寄与行為の態様は被相続人に対する無償の労務の提供に限られており,金銭等出資型の寄与は含まれませんので,特別の寄与を主張することはできません。

 

相続人の寄与制度における寄与の態様については,①家事従事型(被相続人の事業に関する労務の提供),②金銭等出資型(医療費や施設入所費の負担等),③療養看護型(同居し,家事の援助を行うなどの療養看護),④扶養型(生活費の負担,衣食住の面倒といった扶養),⑤財産管理型(不動産の賃貸管理など)があります。

しかし,相続人以外の親族の特別の寄与制度における寄与の態様については,「無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと」に限られています(無償での家事従事型や無償での療養看護がこれにあたる)。

これは特別の寄与制度は紛争の長期化,複雑化の懸念があるため,認められるべき寄与行為を制限すべきという考えを背景として,無償の役務の提供については特別の寄与を認めるべき必要性が高いのに対して,事業資金の提供などの金銭等出資型については,給付時に返還の要否等を被相続人と取り決めることは比較的容易であるから,特別の寄与を認めるべき必要性は低いという価値判断にもとづいています。

なお,ここで,特別の寄与制度が認められるための要件を明確にしておきましょう。要件は以下のとおりです。

① 被相続人の親族であること

② 無償で療養看護,その他の労務を提供したこと

③ 被相続人の財産の維持又は増加があること

④ ②と③との因果関係があること

⑤ 特別の寄与と認められること

Q2は①,Q3は②の要件に関する質問だったことがわかると思います。

なお,①の要件については,被相続人の親族である事の判断基準時は何時なのかという問題や,②の要件については,無償であるか否かはどのように判断するのか,例えば,被相続人が労務を提供していた者の生活費を負担していた場合も労務と言えるのかという問題があります。

(一応上記の答えは,相続開始時であり,相続開始時に親族ではなかったなら(相続開始時には離婚していた元妻),特別の寄与の請求権者とはなりません。)

(個別具体的事案によりますが,被相続人の要介護状態以前から生活費を負担していたのであれば,療養介護の無償性は認められやすくなるでしょう。)

 

改正相続法8 遺産の一部分割(民法第907条)

今回は,改正相続法8 遺産の一部分割(民法第907条)です。

 

Q1 父の遺産は自宅(土地・建物)と預貯金です。共同相続人の弟と自宅の帰属をめぐっては意見が対立していますが,預貯金については法定相続分どおり半分にしようと意見が一致しています。とりあえずお金が必要なので,預貯金のみ遺産分割することができますか。

A1 できます。

 

遺産分割は,事件の終局的解決のために,裁判外の協議でも調停や審判といった裁判上の手続でも,遺産の全てを対象とすることが多いと思います。

しかし,不動産については誰が相続するのかについて争うが,預貯金については法定相続分で早期に分割してもらいたいなど,争いのない遺産の分割を先行させたいとして一部分割を行うことが有益な場合があります。

従前は法文上一部分割が許容されるか明確でなかったこの一部分割について,改正相続法では一定の場合には可能という規定が設けられることになりました。

なお,家事事件手続法第73条第2項の一部審判として行われる一部分割(残余財産についての審判事件が係属したままに,一部の財産について審判をするのに熟したとして行われる一部分割)とは異なります。今回の改正法が対象としているのは,残余財産は審判事件に係属しない,全部審判としての一部分割です。

 

 

Q2 一部分割は常にできるのですか。何か要件はあるのでしょうか。

A2 一部分割は他の共同相続人の利益を害するおそれがない場合にできます。そのため,他の共同相続人の利益を害するおそれがないことが要件となります。

 

一部分割は,共同相続人に遺産についての処分権限を認めた制度ですが,無制限にできるわけではありません。

他の共同相続人の利益を害するおそれがないことが必要です。

当事者に対する特別受益の内容,代償金の支払による解決の可能性やその資力の有無などの事情を総合して,一部分割をすることにより,最終的に適正な分割を達成しうるという明確な見通しが立たない場合には,他の共同相続人の利益を害するおそれがあるとして,一部分割が認められないことになります。

 

 

Q3 遺産分割調停(審判)を申立てる際に,全部分割を求めるのか一部分割を求めるのかを明らかにする必要があるのですか。

A3 全部分割か一部分割を求めるかを明らかにする必要があります。

改正相続法により一部分割の制度が定められたため,申立ての趣旨に求める分割が全部分割なのか一部分割なのかを明らかにすることが必要になりました。

裁判所の用意する書式をみますと,申立書に添付する遺産目録には,全ての遺産を記載した上で,申立ての趣旨欄に分割を求める遺産の範囲を特定して記載するようになりました。

 

 

Q4 兄から一部分割調停を申し立てられたのですが,私としては全部の遺産について分割協議をしたいのですが,どうしたらいいですか。

A4 自ら全ての遺産を対象とした遺産分割調停を申し立てるか,残余の遺産を対象とした一部分割の遺産分割調停を申し立てましょう。

 

一部分割を申し立てられた共同相続人にも,遺産についての処分権限があるのですから,申立人以外の共同相続人が,遺産の全部分割又は当初の申立てとは異なる範囲の一部分割を求めることは可能です。

ただその際には,自分自身で新たな申立てをする必要があります。そして具体的には,当初の申立てと併合して(一緒になって)審理されることになります。

なお,一部分割の申立人が審理の途中で他の遺産の分割を求めたいと思った場合には,申立ての趣旨を拡張します。具体的には,申立ての趣旨変更申立書を裁判所に提出することになります。