「石塚弁護士ブログ」カテゴリーアーカイブ

改正相続法24 遺言書保管法

今回は、改正相続法24 遺言書保管法です。

 

自筆証書遺言は、遺言者の死亡後に、本当に遺言者によって作成されたのか、要式・内容に誤りがないか等、後々紛争が生じたり、そもそも遺言書に気付かないまま遺産分割協議がなされてしまうというデメリットがあります。

今回、自筆証書遺言のデメリットを防止し、自筆証書遺言の促進を図るために、自筆証書遺言を法務局に保管してもらうという制度を新設しました。

自筆証書遺言を法務局に保管すると、どうして自筆証書遺言のデメリットが防止できるのかをお話したいと思います。

 

Q1 大切な自筆証書遺言ですから封に入れて保管しておりました。法務局にはこのまま持って行けばいいのでしょうか。

A1 いいえ、法務局に保管するには、自筆証書遺言は無封にして提出する必要があります。

 

法務局で保管する遺言書は、無封の遺言書であることが必要です(遺言書保管法第4条第2項)。

法務局が、民法第968条の定める方式に適合している遺言書であるかを確認するため、また遺言書をスキャナで読み取り画像情報を保管するために、保管される遺言書は無封であることが必要とされています。また、ホチキス止めをしないことも必要とされています。

このように、自筆証書遺言を法務局に保管してもらうと、民法第968条に定める自筆証書遺言の要件(方式)に適合するか否かを確認してもらえるというわけです。これにより、要式不備により遺言書が無効となるというデメリットを防ぐことができます。これは、自筆証書遺言を法務局に提出することの最大のメリットであると思います。

なお、無封であればどのような自筆証書遺言であっても大丈夫、ということではありません。

保管してもらえる遺言書は、法務省令で定める様式による遺言書であることが必要です。保管してもらおうとする人は、まず法務局に問い合わせをすることをお勧めいたします。

 

 

Q2 お父さんが遺言書を保管してもらいたいらしいのですが、お父さんは足が悪いので、長男である私が法務局に自筆証書遺言を提出することができますか。

A2 自筆証書遺言を保管してもらうには、本人たるお父さんが法務局に出頭して提出する必要があります。

 

保管する自筆証書遺言に間違いがあってはいけません。そのため、遺言をする本人が法務局に出頭して自筆証書遺言を提出する必要があります(遺言書保管法第4条第6項)。

そのため、本人が法務局に出頭する必要があります。

 

 

Q3 法務局に保管してもらった遺言書の内容を訂正したいのですが、返還を求めることができますか。

A3 保管の申請を撤回することにより、遺言書の返還を求めることができます。

 

法務局に保管されている遺言書は、保管の申請を撤回することで、いつでも遺言書の返還を求めることができます(遺言書保管法第8条)。

もっとも、他人が勝手に保管を撤回してはいけないので、保管の返還は本人が出頭して行う必要があります。

 

弁護士あるある?

とある日、同じ弁護士会松戸支部に所属されている先生から、メールが届きました。

 

日弁連が作成したトートバッグを、松戸支部の会館で配布しており、会員たる弁護士も受け取ることができますよというものです(注:少し前の話なので、現在は配布していないと思います)。

 

このメールを読んで、私は「ほおう」とつぶやきました。

ちーべんエコバッグを購入したことのある私(詳しくはコチラ)、ぜひ日弁連のトートバッグも入手したいと思いました。

そのため、トートバッグを貰うためだけに松戸支部の会館に行きました。受付の方に「トートバッグが欲しいんですが」というのは少し気恥ずかしかったですが、無事入手することができました。

 

 

 

これ、ちーべんエコバッグとは比べものにならないくらいしっかりした作りでできています。生地が厚く丈夫ですし、縫製もしっかりしています。大きさも大きすぎず小さすぎずで、使い勝手もよさそうです。これなら普段使いに丁度いいかもしれません、中央の文字さえなければですが。

 

調べてみると、このトートバッグ、日弁連が主催している法律相談、「ひまわり法律相談」を推進するプロジェクトチームが、ひまわり法律相談に来られた方に配布するために作成したもののようです。「ひまわり相談ネット」という文字がある理由は、ひまわり法律相談のノベルティだからなのでしょう。

中央の文字さえなければなぁとしげしげ見ているうちに、これ内側に印刷してもよかったのではないかなと思うようになりました。

ひまわり法律相談のノベルティなのだから、外側にそれとわかるように印刷しないでどうするという意見に対して、「外側に印刷部分があると、ひまわり法律相談に行ったことを公言するようでちょっと抵抗があると感じる方もいらっしゃるでしょう。むしろ、バッグの中に印刷した方が、バッグを開けるたびに「なにかあればひまわり法律相談に行こう」と思ってもらえて、ひまわり法律相談の促進につながるのではないでしょうか。」と、屁理屈をこねる先生がプロジェクトチームにはいなかったのでしょうか。作るなら、使ってもらえるノベルティの方がいいと思う私です。

バッグの中に印刷するというのは流石にというのなら、象形文字みたいなキャラクターよりも、日弁連の公式キャラクターのジャフバくんを使った方がまだかわいかったのではないでしょうか。こういうときのためのジャフバくんでしょうに。

 

ここまで考えると、各単位会からいろんなトートバッグが作成されていないかなと思い、インターネットで検索をしてみました。

広島県弁護士会のキャラクター、カープローヤーのトートバッグ。ほぼカープ坊やですから、外側にキャラクターを印刷しても抵抗はありません。

京都弁護士協同組合が作った、持ち手が丈夫な「弁護士帆布かばん」なるトートバッグ。メッセージ性はありませんから、当然ありでしょう。

兵庫県弁護士会取調べの可視化実現本部が作成した「可視化オールくんトートバッグ」。取調「全面」可視化→可視化「オール」→「オール」≒「オウル」(owl:ふくろう)とゴロがいい、夜目も効くから、取調を監視するという意味でふくろうのキャラクターが相応しい、広島県弁護士会の先生方がそんなことを話し合ったのではないかと想像すると、・・・あり、ですかね、うん、あり。

 

と思いがけず無駄な時間を過ごしてしまいましたが、最終的に思ったことは、

弁護士、何かとトートバッグつくりがち、ってことでしょうか、知らんけど。

改正相続法23 遺言執行者の権限の明確化2(民法第1012条~1015条)

今回は、改正相続法23 遺言執行者の権限の明確化2(民法第1012条~1015条)です。

前回は遺言執行者の権限・地位が明確化になったことをお伝えし、その一例として、①遺贈義務者は就職した場合には遅滞なく相続人に遺言書の内容をつたえなければならないこと、及び②特定遺贈における遺贈義務の履行は遺言執行者のみが行えると明文化されたことをあげました。

今回も、遺言執行者の権限・地位が明確化されたことについて説明したいと思います。

 

Q1 主人が妻である私に自宅を「相続させる」との遺言書を書いてくれました。長男が遺言執行者になっているのですが、自宅の登記を主人から私に移転するため、長男だけで登記申請できるでしょうか。

A1 改正相続法によって、特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる」旨の遺言)がされた場合、遺言執行者に対抗要件の具備に必要な行為をする権限が付与されたので、ご長男による単独申請が可能です。

 

旧法下では、判例上、特定財産承継遺言がなされた場合、権利を承継した相続人が単独で登記申請することができるとされていたこと等から、遺言執行者は登記申請をする権利も義務もないと判断されていました。そのため、旧法下では、特定財産承継遺言がなされた場合、遺言執行者は登記申請をすることができませんでした。

また、旧法下では、判例上、相続によって承継した権利は、登記なくして第三者に対抗できるとされていため、急いで相続登記を申請する必要性も高くありませんでした。

設問上の妻は、急いで相続登記をしなくても自分が自宅の所有者であることを第三者(例えば、被相続人名義の自宅の登記を勝手に移す第三者)に主張できるし、相続登記も単独で申請することができるので、遺言執行者を登記申請に関与させる必要性は高くなかったのです。

 

ところが、改正相続法では、特定財産承継遺言がなされた場合も、対抗要件主義が導入され、法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件を備えないと権利の取得を対抗できないこととされました(この改正部分はコチラをご覧ください。)。

そのため、改正相続法では、相続登記をする必要性が高くなったので、特定承継遺言がなされた場合に、遺言執行者が対抗要件の具備に必要な行為をする権限が付与されることになりました。

権限が付与された以上、遺言執行者となった弁護士は、積極的に登記申請をするべきといえますから、実務上は大変重要な改正といえます。

なお、遺言執行者に登記申請をする権限が付与されたことは、特定財産承継遺言によって権利を承継した相続人による登記申請の権限を奪うものではありませんから、改正相続法の下でも、同相続人は単独で登記申請をすることができます。

この点、特定遺贈がなされた場合の遺贈義務の履行は遺言執行者しか行えないということと勘違いしないでください。

 

 

Q2 主人が妻である私に預貯金の全てを「相続させる」との遺言書を書いてくれました。次男が遺言執行者になっているのですが、次男だけで預貯金の払戻や預貯金契約の解約をすることはできますか。

A2 改正相続法によって、特定財産承継遺言がなされた場合に、遺言執行者には預貯金の払戻や預貯金契約の解約権限が付与されたので、遺言執行者であるご次男が預貯金の払戻をすることは可能です

 

旧法下では、特定財産承継遺言がなされた場合、遺言執行者は当然に預貯金の払戻しや預貯金契約の解約が行えるとの明文の規定はありませんでした。

しかし、今回の改正法によって、特定財産承継遺言がなされた場合、原則として、遺言執行者に預貯金の払戻しや預貯金契約の解約の申入れをする権限があることが明文上規定されることになりました。

もっとも、預貯金債権の一部が特定財産承継遺言の目的となっているに過ぎない場合についてまで、遺言執行者に預貯金債権の前部の払戻しを認めると、受益相続人以外の相続人の権利を害するおそれがあります。

そのため、遺言執行者が払戻し等ができるのは、預貯金債権の前部が特定財産承継遺言の目的となっている場合に限定されております。

 

Q3 主人が、長男を遺言執行者とする遺言書を書き、長男が遺言執行者として指定されることになったのですが、長男の仕事が忙しく、なかなか遺言執行者としての事務を行えません。妻(母)である私が代わりに遺言執行者になれないでしょうか。

A3 ご長男から、あなたを遺言執行者として選任する手続きをとれば、あなたが遺言執行者としての事務を行うことができます。

 

これは、遺言執行者の復任権の問題です。

旧法下では、遺言執行者は、原則として、やむを得ない事由がなければ第三者にその任務を行わせることができない、復任できないとされていました。そのため、仕事が忙しいという程度では、遺言執行者は第三者に任務を行わせることはできないでしょう。

しかし、新法下では、遺言執行者は、原則として、第三者にその任務を行わせることができる、復任できるとされました。(なお、遺言者がその遺言で復任を禁じている場合は復任できません。)

このように、原則復任できないから、原則復任できるに変わったということになります。

これは、遺言執行者の任務は行うことが少なくないため、復任を認める必要性が高いのに、旧法下のように(やむを得ない自由がない場合に、)相続人全員の同意を得なければ復任できないという扱いでは不都合であるという要請があったからです。

もちろん、復任を安易にされては困りますので、復任した第三者が行った行為の責任を、遺言執行者は原則として負うことになります。復任の権限を認める一方で、その責任も明確にしているというわけです。

 

遺言執行者の権限の明確化に関するその他の記事

改正相続法22 遺言執行者の権限の明確化(民法第1012条~1015条)

 

改正相続法22 遺言執行者の権限の明確化(民法第1012条~1015条)

今回は、改正相続法22 遺言執行者の権限の明確化(民法第1012条~1015条)です。

多くの方には耳馴染みのない「遺言執行者」の話です。遺言執行者とは、遺言書に記載されている内容、事務を行う者のことをいいます。

例えば、ある不動産を遺贈するという遺言書があり、その遺言書に遺言執行者が定められている場合には、遺言執行者となった者は、当該不動産を遺贈するための事務を行うことになります。

遺言執行者を定めるには、遺言書に遺言執行者を〇〇とすると定める必要があります。長男を遺言執行者に定める自筆証書遺言は少なくありません。

もっとも、この遺言執行者の行う事務は簡単ではありません。法律の知識も必要になりますし、相続人との交渉、調整能力が問われたりします。

そのため、弁護士が遺言執行者として指定されることも少なくありません。完全に余談ですが、犬神家の一族に見られるように、旧家の顧問弁護士が遺言書を読み上げるシーンが映画やドラマで見られますが、おそらくあの弁護士は遺言執行者として指定されているんだろうなと私は推察し、あこがれたりしています(スケキヨ)。

もっとも、最近ですと、銀行等の金融機関が積極的に遺言執行者になりますよと働きかけていますから、最近では銀行等の金融機関が遺言執行者として指定されることも多くなっていると思います。

このように、遺言書に書かれている内容を円滑に実現するために重要な権限・地位を有する遺言執行者ですが、旧法においてはその規定の仕方が一般的・抽象的であったため、その権限・地位について分かりにくいところがありました。

そこで、今回の改正では、遺言執行者の権限・地位が明確になりました。

 

Q1 私はお父さんの前妻の子供にあたるものです。お父さんは生前遺言書を書いてくれたようなのですが、遺言書は後妻やその子供達が持っているようなのです。私は遺言書の内容を知ることができるのでしょうか。

A1 自筆証書遺言がなされて検認手続がなされれば、その際に内容を知ることができますし、仮に遺言執行者がいる場合、遺言執行者には遺言書の内容を知らせる義務がありますので、遺言執行者を通じて遺言書の内容を知ることもできます。

 

旧法のもとでは、遺言執行者は財産目録を作成してこれを相続人に交付する義務はありましたが、遺言執行者が就職したことや遺言書の内容を相続人に通知する義務については規定がありませんでした。

しかし、遺言執行者がいることがわかれば、相続人は遺言書の内容を遺言執行者に問い合わせをすることができます。そのため、遺言執行者が就職したことの事実は、それ自体相続人にとっては重要な情報といえます。したがって、改正相続法では遺言執行者が就職したことを遅滞なく相続人に通知しなければならないと定めました。

 

Q2 お父さんは自宅を妻である私に贈与するとの遺言書を書いてくれました。石塚何某という弁護士が遺言執行者ですと名乗って、自宅の登記申請に協力するっていうんですが、信用していいのでしょうか。

A2 遺言執行者がある場合は、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができると明文化されましたから、その先生は信用していいと思いますよ。

 

旧法のもとでは、設問のような場合に、遺贈義務者は他の相続人になるのか、遺言執行者がなるのかについて、定めておりませんでした。

この点判例が、特定遺贈がなされた場合において、遺言執行者があるときは、遺言執行者のみが遺贈義務者となると判示していたため、実際には遺言執行者が遺贈義務者となっていました。

改正相続法では、この判例を明文化しました。「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」(第1012条第2項)と規定されたのです。

 

改正相続法21 持ち戻し免除の意思表示の推定3(民法第903条第4項)

今回は「改正相続法21 持ち戻し免除の意思表示の推定3(民法第903条第4項)です。

 

前二回に引き続いての持ち戻し免除の意思表示の推定に関するお話です。

私としては、持ち戻し免除の意思表示の推定が直接問題となるわけではないのですが、実務上、Q1の設問において、この持戻し免除の意思表示の推定規定が間接的に重要な効果を及ぼすことになるのではないか、弁護士としてしっかりとこの持ち戻し免除の意思表示の推定規定を押さえておく必要があるのではないかと思っております。

少し難しいけど、ためになるのが今回です。

 

 

 

Q1 私と夫の婚姻期間は20年以上ですが、夫は遺言書で自宅を私に「相続させる」と記載しており、「贈与する」と記載しておりませんでした。遺言書に記載されていない遺産があり、その遺産分割が問題となる場合、「相続させる」と記載された自宅に、持ち戻し免除の意思表示は推定されるのでしょうか。

A1 「相続させる」と記載された場合には持ち戻し免除の意思表示は推定されません。もっとも、居住用不動産以外の遺産分割において、自己の法定相続分を主張できる可能性はあるでしょう。

「相続させる」と記載された遺言書を、特定財産承継遺言といいいます。判例上、特定財産承継遺言は、遺贈又は贈与とは異なり、「遺産分割方法の指定」とされております。実務では、この「相続させる」と記載された遺言書は大変多いです。「遺贈」よりも多いでしょう。これは、不動産について、遺贈の場合には登記申請を共同申請する必要があるのに対して、遺産分割方法の指定の場合には単独申請が可能という違い、効果が大きいと思います。

いずれにしましても、遺産分割方法の指定とされ、遺贈と区別されている以上、居住用財産を「相続させる」と記載された遺言書には、「遺贈又は贈与」がなされた場合と規定されている民法第903条第4項を直接適用することはできないことになります。

したがって、遺言書において被相続人がその配偶者に自宅を「相続させる」と記載されている場合、民法第903条第4項の直接適用によって持ち戻し免除の意思表示を推定することはできません。

では、このときに遺言書に記載されていない他の財産(預貯金等)がある場合、配偶者は居住用不動産という特別受益を受けていることを理由に、自己の法定相続分を主張することはできないのでしょうか。

この問題は、持ち戻し免除の意思表示の推定の問題というよりも、遺言書に記載されていない遺産の分割方法をどうするのかという、遺言者の意思解釈の問題になります。

本件のような場合、遺言者の意思解釈には、次の2つの考え方が成り立つと思います。①遺産分割方法の指定を受けた相続人の具体的相続分は既に指定を受けた遺産の額を控除するという考え方と、②遺産分割方法の指定がなされた財産は別のものとして考慮の範囲外として、残りの遺産を法定相続分で分けるという考え方です。

前者のように考えるのであれば、特別受益の持ち戻しがなされたままということになりますし、後者のように考えるのであれば、持ち戻し免除の意思表示が推定されたのと同じ結論になります。

さて、設問にあるように、婚姻期間が20年以上ある夫婦間でなされた、居住用不動産を「相続させる」という遺言書がある場合の遺言者の意思について、上記①②いずれのように考えるべきでしょうか。

具体的事情をもとに検討することになるでしょうが、遺産分割方法の指定をした遺言者は、居住用不動産以外の遺産に対する配偶者の取り分を減らす意図はなかったと考えられることが多いのではないでしょうか。

そのため、「相続させる」との遺言書によって居住用不動産を取得することになった場合にも、他の遺産の取得を諦めるべきではないと思います。この辺りになると、法律的な知識が無いと難しいところがありますので、是非弁護士に相談されるべきと思います。

 

 

Q2 私と妻の婚姻期間は20年以上ですが、私は以前妻に自宅を生前贈与したことがあります。しかし、妻はその後私の面倒を見ず遊び歩いているので、自宅の贈与を特別受益として持ち戻させたいのですが、可能ですか。

A2 持ち戻し免除の意思表示はあくまでも推定されるというだけですから、ご本人がそれと異なる意思を表示すること、つまり特別受益として持ち戻させることは可能です。

あくまでも民法第903条第4項は被相続人の意思を「推定する」規定ですから、被相続人がこれと異なる意思を表明することは可能です。

そして、この異なる意思の表明ですが、「遺言書」の中で表明してもいいですし、それ以外の方法で表明することも可能です。

 

持ち戻し免除の意思表示の推定に関するその他の記事

改正相続法19 持ち戻し免除の意思表示の推定1

改正相続法20 持ち戻し免除の意思表示の推定2

改正相続法20 持ち戻し免除の意思表示の推定2(第903条第4項)

今回は、改正相続法20 持ち戻し免除の意思表示の推定2(第903条第4項)です。

前回、①婚姻期間20年以上の夫婦の一方が他の一方に対して②居住用不動産を贈与する場合には、持ち戻し免除の意思が推定されることになった、この影響は大きというはなしをしました。

今回は、その要件についてのはなしです。

 

Q1 私と夫の婚姻期間は20年以上ですが、私は夫から賃貸マンションを贈与されたことがありますが、この場合も持ち戻し免除の意思表示は推定されますか。

A1 されません。

 

持ち戻し免除の意思表示が推定されるのは、婚姻期間の長い夫婦間でなされた居住用不動産の贈与等であれば、相手方配偶者の老後の生活保障のために行われることが多いだろうということが、前提となっています。

そのため、被相続人による賃貸マンションの贈与も、真実は相手方配偶者の生活保障のために行われたのかもしれませんが、意思表示を推定することはできません。

賃貸マンションの贈与をなした場合には、依然として持ち戻し免除の意思表示をしないと、特別受益と評価されてしまうことになります。

 

 

Q2 私と夫の婚姻期間は20年以上ですが、私は夫から店舗兼住宅を贈与されたことがありますが、この場合は持ち戻し免除の意思表示が推定されますか。

A2 構造や形態によって判断されます。店舗と居住用部分とが構造上一体となっていれば店舗部分も含めて戻し免除の意思表示は推定されるでしょうし、構造上分離されていれば、つまり居住用部分が離れのようになっていれば推定できないことになるでしょう。

 

店舗兼住宅について、1階は店舗、2階は住居となっているような店舗兼住宅を贈与した場合、2階部分のみ他方配偶者の生活保障のための贈与で、1階部分はそうではないというのは考えづらいところです。

あくまでも構造や形態によって判断されることになりますが、一般論としては構造上一体となっているような店舗兼住宅であれば全体について持ち戻し免除の意思表示は推定されることが多いでしょうし、完全に分離していて居住用不動産が離れのようになっているのであれば、店舗部分は意思表示の推定が及ばないということもあり得ます。

 

 

Q3 夫は流山市と柏市にそれぞれ住居を持っていました。夫は婚姻後19年目に柏市の住居を贈与してくれましたが、その頃は私たちは流山市の住居に住んでおり、柏市の住居には住んでいませんでした。夫は私に柏市の住居を贈与した後、流山市の自宅を売却したので、私たちは以後柏市の住居に住んでいます。贈与されたときは柏市の住居に住んでいなかったのですから、居住用不動産の贈与とはいえずに、持ち戻し免除の意思表示は推定されないのでしょうか。

A3 居住していたか否かは、贈与の時点で判断します。そのため、贈与されたときに柏市の住居に住んでいなかったのであれば、居住用不動産にはあたらないといえますが、しかし、贈与の時点で近い将来居住のように今日する目的があったと認められる場合には、居住用不動産の贈与として持ち戻し免除の意思表示が推定されることはありえます。

持ち戻し免除の意思表示の推定は、贈与又は遺贈がなされた時点の被相続人の意思を推定するものです。そのため、推定を受けるには、贈与又は遺贈がなされた時点で、その不動産が居住用不動産といえなくてはなりません。

もっとも、贈与又は遺贈がなされた時点において、近い将来に居住する予定だったといえる場合には、居住用不動産といえるとの評価も可能とされています。

 

 

改正相続法19 持ち戻し免除の意思表示の推定(第903条第4項)

今回は、改正相続法19 持ち戻し免除の意思表示の推定(第903条第4項)です。

私はこの改正は、影響力が大きく重要だと考えております。

影響力が大きく重要であることを理解していただくには、そもそも「持ち戻し免除」って何?ってところからご説明する必要があると思います。

前提知識1「持ち戻し」って何?

遺産分割は、原則として、「現在存在している」遺産を分割する手続です。被相続人が生前に財を成し、たくさんの不動産、多額の預貯金を有していたとしても、亡くなる前に不動産を贈与したり、預貯金を費消したりして無くなってしまえば、その不動産や預貯金は遺産には含まれません。そのため、「現在存在している」遺産をもとに相続人間でどのように分割をするのか決めていくことになります。

しかし、民法第903条第1項に定める「特別受益(とくべつじゅえき)」にあたる遺贈(遺言による贈与)や贈与(生前贈与)がなされた場合、その遺贈や贈与は相続の前渡しと一緒なので、遺贈や贈与された財産を遺産に戻して、分割を考えていくことになります。この遺贈や贈与された財産を遺産に戻すことを「持ち戻し」といいます。

具体的に説明すると以下のようになります。

被相続人甲さんは4000万円の預金を残して亡くなりました。法定相続人は妻のAさんと息子のB・Cさんです。何にもなければ、Aさんは2000万円、BさんとCさんは1000万円を相続することになります。

しかし、被相続人は生前、自分が死んだあと住む場所が亡くなってはかわいそうだと思い、妻のAさんに自宅を生前贈与していたとします。この家の価値は2000万円でした。この生前贈与が特別受益にあたるとすると、遺産の4000万円に2000万円を「持ち戻す」ことになります。そうすると持ち戻し後の遺産は6000万円だとして、BさんとCさんは法定相続分(4分の1)により1500万円ずつ相続することになります。Aさんも法定相続分(2分の1)により3000万円を取得するといえるのですが、その内の2000万円は2000万円の家を貰うという形で相続分の前渡しを受けていますから、相続時には1000万円を取得することになります。

結果として、4000万円の預金を、Aさんは1000万円、BさんとCさんは1500万円ずつそれぞれ相続することになるというわけです。

(特別受益についてはコチラも参考にしてください)

前提知識2持ち戻し「免除」って何?

「持ち戻し」とは何かを理解したとして、次にご説明するのは「持ち戻し免除」とは何かです。

先の例で、被相続人は、妻のAさんに家を生前贈与したけれど、これは相続分の前渡しではない、自分が死んだあとにAさんの住む場所を用意してあげるためであり、相続とは別にしたいと思うことも考えられます。自分が亡くなったときの遺産についてAさんに法定相続分である2分の1を取得してもらいたいと思うということもあるということです。

被相続人がこのように思ったとき、この遺贈又は贈与された財産は特別受益にあたらないよ、持ち戻しを免除するよ、と意思表示することができます。具体的には遺言書でこれを行います。

この持戻し免除がなされた場合、先の例で妻Aが取得した2000万円相当の家は特別受益にあたらなくなりますから、「持戻しが免除」されます。そのため、Aさんは預金4000万円の内、法定相続分(2分の1)の2000万円を取得できることになるのです。

したがって、「持ち戻し」とは、特別受益にあたる財産を遺産に戻すことをいい、「持ち戻し免除」とは、特別受益にあたらないと意思表示すること、遺贈又は贈与した財産の持ち戻しをさせない意思表示をすることをいいます。

 

被相続人の財産ですから、それをどのように処分するかは被相続人の自由であるわけです。被相続人の分けたいように分けるべきですから、この「持ち戻し免除」はある意味当然といえます。

しかし、被相続人は持ち戻し免除をしたければ、持ち戻し免除の意思を明らかにしなければならないのです。何もしなければ、特別受益にあたれば持ち戻されてしまうので、それを避けたいのであれば持ち戻し免除の意思を明らかにしなければならない、これが相続法の考え方です。

 

前置きが長くなりました。さて、それでは今回何が改正されたのでしょうか。

 

Q1 夫は生前、自分が死んだときに私の住むところが亡くなってはかわいそうだといって、私に家を贈与してくれました。その夫が亡くなり相続になった際、子供たちが家の贈与は特別受益にあたるから、残された遺産について私の取り分はないというのですが、仕方ないでしょうか。なお、持ち戻し免除の意思は明らかになっていません。

A1 ①婚姻期間20年以上の夫婦間でなされた、②居住用不動産の贈与であれば、持ち戻し免除の意思を推定することができますので、残された遺産についてもあなたの取り分はあることになります。

 

上記のとおり、持ち戻し免除をする際には、その意思を明らかにしなければなりません。

しかし、今回の改正で、①婚姻期間20年以上の夫婦間でなされた、②居住用不動産の贈与であれば、持ち戻し免除の意思を推定されることになりました。つまり、持ち戻し免除の意思を明らかにしていなくても、持ち戻し免除の効果が認められるということです。

これは、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方に対して居住用不動産(自宅など)を贈与等する場合には、その贈与等は、通常相手方配偶者の労に報いるとともに、その配偶者の老後の生活保障を厚くする趣旨と考えられるので、被相続人の意思としては、持ち戻し免除の意思があったであろうと判断できると考えられたからです。

これによって、配偶者は残された遺産に対してもその相続分を主張できることになり、配偶者の生活が守られることになります。

 

 

20年以上寄り添うご夫婦は多くいらっしゃるでしょうから、今回の改正は多くの人に影響を与えることになると思いますし、なにより価値の大きな不動産分が特別受益にあたらないとなれば、相続時の配偶者の取り分は十分確保できる可能性が高く、その効果はとても大きいと思います。

 

 

改正相続法18 自筆証書遺言の方式緩和(民法第968条第2項)

今回は、改正相続法18 自筆証書遺言の方式緩和(民法第969条第2項)です。

自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)とは、遺言者が自筆で作成する遺言書のことをいいます。

多くの方がイメージする遺言書といえば、この自筆証書遺言になるかもしれません。
しかしながら、その使い勝手がいいとはいいきれないところがあります。私も遺言書の作成を相談された際には自筆証書遺言によらないで公正証書遺言、すなわち公証人が作成する遺言書にした方がいいですよとアドバイスすることにしています。

なぜかといいますと、自筆証書遺言に限らず、遺言書には厳格な要件、方式が定められており、その要件、方式が欠けると遺言書は無効になってしまい、せっかく書いた遺言書が意味をなさなくなってしまう危険があるからです。

自筆証書遺言の要件、方式とは、遺言書の「全文」、日付及び氏名を自書(自ら書くこと)し、これに印を押さなければならないというものです。
ですから、日付が抜け落ちたり、不明確だったり、遺言書の一部を他人が手伝っていたりすると、それだけで遺言書の効力は無効になってしまいます。
そういったリスクを負うくらいなら、公証人に作成してもらった方が間違いなので安心でしょうから、公正証書遺言にした方がいいですよ、というのが当職の考えということになります。

これが今回の前提知識ということになりますが、その自筆証書遺言の要件、方式が少し変わりました。厳格な要件、方式故に遺言者の負担となっていた自筆証書遺言の要件、方式を緩和することで、自筆証書遺言の利用を促進しようというのが制度趣旨ということになります。

さて、どこが変わったのでしょうか。

Q1 私には遺産が複数あります。そのため、自筆証書遺言をする際に財産目録をつけたいのですが、この財産目録も私が自ら作成しなければなりませんか。

A1 旧法のもとでは自ら作成しなければなりませんでしたが、新法下では財産目録を自ら作成する必要はありません。たとえば、財産目録をパソコン入力して印刷したものとしても自筆証書遺言としては有効となります。

今回の自筆証書遺言の要件、方式緩和は、この「財産目録の自筆性が不要になった」ことにあります。
少なくない遺産を有する人が遺言書を残すとき、遺産の全てを本文に記載して、それを各相続人に相続させると記載するのはそれなりに面倒です。例えば、「○○銀行××支店の普通預金口座、口座番号△△の預金はAに相続させる」といった記載を各遺産毎に自筆しなければなりません。
財産目録を使うと「別紙財産目録1,2、及び3の財産はBに相続させる」と書けばいいことになり、その財産目録を自筆でなくパソコン入力で作成してもいいことになれば、その負担はやはり相応に減ると言えます。財産目録であれば他人に作成してもらってもいいわけです。

 

Q2 財産目録を自筆しなくていいことはわかりましたが、財産目録を作成するのに注意することがありますか。

A2 財産目録の形式は要求されていません。登記事項証明書そのものを財産目録に使用しても、通帳の写しを財産目録として使用しても構いません。しかしながら、各財産目録の各頁に署名押印する必要がありますので、そこは注意する必要があります。

要件、方式緩和のため、財産目録の自筆性は不要になったのですが、その代わりに「各頁に署名押印」することは必要とされています。なお、財産目録に使用する印と本文に使用する印とが異なっても構わないとされています。もっとも、誰が押印したのかと要らぬ疑いが生じないように本文の印と同じ印を使用するのが無難ではないかと、個人的には思います。

 

Q3 財産目録の形式を問わないのであれば用紙の両面に目録を書いてもいいということでしょうか。その際の署名押印は両面にしなければなりませんか。

A3 用紙の両面を使ってもいいですが、署名と押印は両面にする必要があります。

用紙の片面を使用して作成された財産目録について、財産が記載された面に署名押印しても裏面(白紙部分)に署名押印しても構わないとされています。しかしながら、両面を使用した場合には両面に署名押印しなければなりません。

 

Q4 財産目録の各頁に押印しているのですから、本文にはもう押印しなくてもいいですよね。

A4 財産目録の各頁にどれだけ押印しても、本文に押印しなければいけません。

本文の一部に自書によらない財産目録を記載することは認められていませんので、財産目録に記載された署名押印を本文の署名押印に代えることはできないことになります。
そのため、本文には必ず署名押印をする必要があるということになります。

 

Q5 財産目録を用いる際、本文と一緒に綴じる必要がありますか。

A5 本文と一緒に綴じる必要はありません。

財産目録を本文に添付する方法について特別の定めはありません。ホッチキスで綴じたり、本文との間に契印をする必要もありません。もっとも、一緒の封筒に入れる等、本文に添付された財産目録だとわかる状態にしておくことがよいでしょう。

 

以上が、自筆証書遺言の要件、方式の緩和についての話なのですが、財産目録を自筆でなく作成しても良いということになっても、一方でただその財産目録の各頁には自筆で署名押印をしなければならないという要件が定められたわけですから、ここの部分をしっかり理解しておかないと、結局自筆証書遺言の要件、方式を欠いたとして無効になってしまいかねないことになってしまいます。

便利になったと思う一方で、新たな問題を生まないかな?と心配になるというのが私の印象です。そのため、今のところ公正証書遺言を勧めることを代えることはなさそうです。

弁護士バッジからの思考の迷走

先日のことですが,降車駅が近づいたので電車を降りる準備の為、私はドア付近に立ちました。

同じように降車準備をしていた私の前に立つ大学生らしき男性が,後ろを振り返りました。そして,前を向いたと思うとまた直ぐに後ろを振り返りました。二度見をしたのです。私は,誰か知り合いでも見つけたのかなと思ったのですが,なんとなくその視線が私の方に向けられているように感じ,なんだろうと思いました。

電車が降車駅に着いてホームに降りると,その男性が私に「弁護士さんですか,かっこいいですね,ボクも今司法試験を目指しているんです。」と声をかけてきました。私は突然声をかけられたことでちょっとびっくりしてしまい,「ああ,そうなんですか。頑張ってください。」とだけ答えてその場を去りました。

彼が二度見したのは私のスーツに付けられた弁護士バッジ(徽章)を見つけたからでした。いうまでもなく、かっこいいですねというのは私の容姿に向けられたものではなく、弁護士バッジや弁護士という職業に向けられたものです。

私は彼と別れて最初のうちは,やはり弁護士は憧れる職業であるべきなんだよとか気分よく歩いていたのですが,やがてなんか申し訳ない気持ちになりました。

 

なぜ,もう少し気の利いたことが言えなかったのか。

弁護士に憧れを抱く若者に対する回答としては,あまりにそっけないというか面白みにかける回答だったのではないかと思いはじめたのです。

 

実は、同じような体験は他にもあります。私が郵便局の夜間受付に行ったとき、そこで受付をしていた若い女性が私の差し出した事務所名入りの封筒を見て、「弁護士さんなんですね。いいなぁ。私今度予備試験受けるんです。バイトをしながら受験勉強をしているんです。」と声をかけてくれたことがあったのです。そのときも私は「ああ、そうなんですか。頑張ってくださいね。」とかなんとか答えたのでした。

彼や彼女は、法曹になるべく勉強に勤しむ毎日を過ごしている中で、普段接することのない弁護士である私を見かけ、自らが目標とする対象を具体的に目にしたことで、ふと心を許したといいますか、仲間意識や共感を覚えて声をかけてくれたのではないかと思うのです。そう思うと、なんかもう少しなかったかなあ、自分が今勉強していることには価値があるんだと励みになるような、背中を少しでも押してあげられる一言を出せなかったかなぁ、つまらん先輩だったなぁと思わずにはいられなくなったのです。

 

そのうちに、昔ボスから「弁護士は瞬発力だから。瞬発力ないやつにいい尋問なんかできないから。」と言われたことを思い出してしまい,あの瞬間こそ瞬発力を示す場面だったのではないかと、気の利いた一言をかけるという瞬発力を示せなかったことを悔やみ、やがてなんとなく落ち込んでしまいました。

 

終いには、三四郎のストレイシープよろしく,弁護士は瞬発力,弁護士は瞬発力とつぶやきながら裁判所に向かったのでした。

改正相続法17 配偶者居住権4

今回は、改正相続法17 配偶者居住権4です。

これまでは配偶者居住権について説明してきましたが、今回からは配偶者短期居住権の説明となります。

 

Q1 夫が亡くなって、子供たちと遺産分割協議をしています。協議はなかなか進まずに既に1年以上協議しています。私は夫が所有していた自宅で夫と二人で暮らしていたのですが、遺産分割協議をしている間も自宅に住んでいていいのでしょうか。

A1 配偶者短期居住権が認められる場合には、遺産分割協議中、自宅に住んでいても問題ありません。

配偶者短期居住権とは、配偶者が被相続人の建物に無償で居住していた場合には、被相続人が死亡してから一定の短い期間については、居住建物の使用を認める権利のことをいいます。

この配偶者短期居住権も、改正相続法により新設された権利ですが、この権利が新設されたのは以下の政策的な理由からです。

配偶者が被相続人所有の建物に居住していた場合に、被相続人の死亡により、配偶者が直ちに住み慣れた居住建物を退去しなければならないとすると、配偶者に酷な結果となるので、配偶者を保護するためです。

同権利が新設される前は、平成8年12月17日の判決によって、配偶者は被相続人との間で、相続開始時を始期、遺産分割時を終期とする使用貸借契約を成立していたという解釈を行って、配偶者を保護する判断を行っていました。

今回の改正よって、解釈ではなく法律上の権利として認められることになりました。

 

Q2 配偶者短期居住権が成立するための要件は何ですか。

A2 配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたことが成立要件となります。

 

配偶者短期居住権が成立するためには、配偶者が被相続人の生前に居住建物を無償で使用していたことが必要です。

有償で使用していた場合、例えば被相続人と賃貸借契約を締結していた場合には、賃貸人の地位を相続人が承継することになるため、配偶者短期居住権という特別の権利を認める必要が乏しいかです。

 

Q3 配偶者短期居住権はいつまで存続するのですか。

A3 配偶者短期居住権の存続期間は、①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合と、②それ以外の場合で異なります。

まず、①の場合(すなわち配偶者が居住建物に遺産共有持分を有している場合)には、⑴遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日まで存続します。

次に、②の場合(すなわち配偶者が居住建物について遺産共有持分を有していない場合)には、居住建物取得者による配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6カ月を経過する日まで存続します。

①の場合に、遺産分割終了時とせずに、相続開始の時から6カ月を経過する日との比較でいずれか遅い日と定められたのは、早期に遺産分割が終了してしまった場合に、配偶者において退去の準備ができていないということがあり得るので、退去まで一定の期間を猶予したこと等が理由です。

②の場合は、居住建物が配偶者以外の相続人や第三者に遺贈されたような場合が想定されます。このような場合、消滅の申入れから6カ月あれば、配偶者も退去できるだろうと考えられております。

 

Q4 配偶者居住権の場合、権利取得を第三者に対抗するために登記することができましたが、配偶者短期居住権を取得した場合も登記をすることができるのですか。

A4 いいえ、配偶者短期居住権については登記制度はありません。そのため、居住建物の取得者が第三者に居住建物を譲渡してしまった場合、配偶者は当該第三者に配偶者短期居住権を対抗することはできません。その代わりに、配偶者は居住建物取得者に対して損害賠償請求をすることができます。

 

配偶者短期居住権は、あくまでも配偶者を債権者、居住建物取得者を債務者とする使用借権類似の法定債権ですし、配偶者居住権所なりその期間は短期にとどまります。そのため、対抗要件制度を設けていません。したがって、居住建物の第三取得者に権利を対抗することはできません。

配偶者短期居住権者は、居住建物取得者が第三者に居住建物を譲渡した場合には、居住建物取得者に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができます。

 

Q5 配偶者短期居住権者が、遺産分割によって配偶者居住権を取得した場合、配偶者短期居住権と配偶者居住権の二つを有することになるのですか。

A5 いいえ、配偶者短期居住権の消滅原因のひとつに配偶者による配偶者居住権の取得がありますので、配偶者短期居住権は消滅し、配偶者居住権飲みが残ることになります。

配偶者短期居住権よりも配偶者居住権の方が強力な権利であり、配偶者短期居住権を残す意義はないからです。

配偶者短期居住権の消滅原因としては、①存続期間の満了(第1037条第1項)、②居住建物取得者による消滅請求(第1038条第3項)、③配偶者による配偶者居住権の取得(第1039条)、④配偶者の死亡(第1041条、第597条第3項)、⑤居住建物の全部滅失当(第1041条、第616条の2)等があります。

 

以上で配偶者居住権は終了です。これまでの説明はコチラ。

改正相続法14 配偶者居住権1

改正相続法15 配偶者居住権2

改正相続法16 配偶者居住権3