石塚弁護士ブログ

改正相続法5 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱い(民法第906条の2)

今回は改正相続法5 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱い(民法第906条の2)です。

今回の改正部分は,いわゆる相続における使途不明金問題に関係します。相続における使途不明金問題とは,例えば相続前又は相続後遺産分割前に共同相続人の一人が勝手に被相続人の財産を費消してしまった場合にどう処理するのかという問題です。この使途不明金問題は実務上度々問題となります。

結論の先取りのようですが,今回の改正法で民法第906条の2が設けられたことによって,相続における使途不明金問題については,遺産分割調停・審判で解決できる場合が多くなりました。

実務において重要な改正だと思いますので,今回は遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱いを規定した民法第906条の2についてお話したいと思います。

 

それではいつものように前提知識から

遺産分割調停・審判で当然に分割の対象となる財産は,①被相続人が相続開始時に所有し,②現在(分割時)も存在する,③未分割の,④積極財産とされます。

そのため,被相続人の生前に相続人の一人が引出した預貯金や,被相続人が死亡した後に相続人の一人が引出した預貯金は,相続開始時又は分割時に存在しないため,原則として遺産分割の対象とすることができません。

もっとも,実務上は,解釈によって,相続人全員の同意がある場合は例外的に遺産分割の対象としておりました。

しかし,勝手に預貯金等を引き出した相続人が,引き出した預貯金を遺産分割の対象とすることに同意をするということは通常ありません。

そのため,使途不明金問題は民事訴訟で別に解決する必要がありました。

具体的には,不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起しなければなりませんでした(使途不明金に説明はコチラの遺産分割の付随問題 使途不明金についても参考にしてください。)。

 

それでは本題

Q1 相続人は私と弟の二人です。その弟が,相続開始時の預金3000万円のうち1000万円を勝手に引き出してしまいました。遺産分割調停の他に民事訴訟をしないといけないでしょうか。

A1 弟さんの同意を得ないで1000万円の預貯金についても遺産とみなして遺産分割調停を行うことができます。

新しい相続法では,遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人全員の同意がある場合には,処分された財産も分割時に存在するものとして,遺産としてみなすことができると,明記されました(民法906条の2第1項)。

そして,共同相続人の一人又は数人により処分がされたときは,当該共同相続人についての同意を得ることを要しないとも定められました(民法906条の2第2項)。

民法906条の2第1項は従前の実務上の扱いを明文化したものですが,より重要なのは同条第2項です。

処分をした相続人の同意が得られないために遺産分割調停の対象とならないとすると,処分をした者の最終的な取得額が処分をしなかった場合と比べて大きくなり,その反面,他の共同相続人の遺産分割における取得額が小さくなるという計算上の不公平が生じえます。

そうした不公平をさけるために,新しい相続法では,処分をした相続人の同意は不要としたのです。

これにより,処分をしていない相続人らの同意のみで処分をした財産を遺産分割とすることができるようになりました。

上記の例ですと,弟の同意を得ずに,引き出された1000万を遺産とみなして遺産分割調停を行い,残存する預貯金2000万の内1500万を兄が,残りの500万を弟が取得することができるようになったのです。

 

 

Q2 相続開始時に3000万円あった預貯金から知らぬ間に1000万円引き出されていました。引き出したのは相続人の一人の弟しかいないと思うのですが,弟は知らないと言い張っています。遺産分割調停・審判の他に民事訴訟をしないといけないでしょうか。

A2 遺産分割事件を取り扱う家庭裁判所において処分者についての事実認定をすることができます。ただし,1000万円が遺産に含まれることの確認を求める民事訴訟を提起した方がよい場合が多いと思います。

民法第906条の2第2項が適用されるのは,共同相続人の一人又は数人が遺産に属する財産を処分したことに争いがない場合であり,被相続人の預貯金を払戻したのが誰か不明な場合には同条項をそのまま適用することはできません。

しかし,遺産分割前の遺産に属する財産が処分されたが,共同相続人間で誰がその処分をしたのか争いが生じる場合,遺産分割事件を取り扱う家庭裁判所においても,遺産分割の前提と問題としてその処分者について事実認定をした上で,遺産分割の審判をすることは可能です。

例えば,預貯金の払戻しが窓口で行われた場合,払い戻しの手続きを行った際の書類を見れば,筆跡等により,誰が払い戻したか容易に分かることがあります。

家庭裁判所は払い戻し手続きをした当事者が特定できる場合,当該相続人に払い戻しを認めて遺産の範囲に含めることに理解を求めていくことになります。

したがって,必ずしも民事訴訟をする必要はないとはいえます。

もっとも,遺産分割の審判の中でした事実認定については拘束力(既判力)がないので,後日争われ,結果審判の効力が否定されるおそれがあります。

家庭裁判所の努力にもかかわらず当該相続人が払い戻しを認めない場合には,その他の相続人に,後に認定判断が覆るリスクを引き受けた上で遺産分割審判を続けていくか,時間も費用もかかりますが,終局的な解決をめざすべく遺産分割調停・審判の手続を止めて,払い戻された預貯金が遺産の範囲に含まれることを確認するための遺産の範囲確認訴訟を提起するかの選択を求めることになります。

状況にもよるのでしょうが,代理人としては(私なら),後に遺産分割前の遺産に属する財産の処分者についての認定が争われて,遺産分割審判の効力が否定されることのないように,処分された財産が遺産に含まれることの確認訴訟を提訴することを選択するのではないでしょうか。

なお同確認訴訟では,民法906条の2が設けられたことから,①処分された財産は相続開始時に遺産に属していたこと,②処分者は弟であること,③相談者は1000万の預金を遺産分割の対象に含めることに同意していることを主張することになります。

民事訴訟で処分された財産が遺産に含まれることになれば,その判断に既判力が生じるので,遺産分割手続きを行う家庭裁判所は処分された財産が遺産に含まれることを前提として遺産分割を行うことになります。

 

 

Q3 相続人は私と弟と妹の三人です。弟は被相続人の死後に被相続人の預貯金から1000万円を引き出したことは認めているのですが,引き出したお金は被相続人からもらったものだとか,葬儀費用に使ったとか述べて自分が取得したことを認めません。妹は弟の説明に納得しているようなのですが,私は納得していません。このような場合も,民法第906条の2第2項によって,引出された1000万円についても遺産とみなして遺産分割調停・審判をすることができるでしょうか。

A3 妹さんが同意することはなさそうですから,民法第906条の2第2項によって引出された1000万円を遺産分割の対象とすることはできないでしょう。別途,民事訴訟を提起する必要があります。

 

Q3は,相続人として払い戻しをしたことを認めておりますが,引き出した預貯金を自己の取得分とすることを認めないケースです。取得分として認めない理由は,払戻した預貯金を,相続債務,公租公課,遺産管理費,葬儀費用など,相続人全員のために費消したからと述べることが多いと思います。

このような場合,家庭裁判所は自己の取得分として認めない当事者に対して,費消の事実や費消に至る経緯,遺産から支出することの相当性等について,裏付けとなる資料の提出を求め,説明を受けることになります。そしてその後の処理は以下のように当該説明に他の相続人が納得するか否かで異なっていきます。

(1)当該説明を他の相続人が納得すれば,同意は問題とならないので,払戻した預貯金は遺産分割の対象にはならないことになります。この場合,別途民事訴訟がなされることもないでしょう。

(2)当該説明を共同相続人の内の一部は納得したが全員の納得が得られなかった場合は(Q3のケース),納得をした者は民法第906条の2の同意をすることはないでしょうから,同条によって払い戻された預貯金が遺産分割の対象となることはないことになります。このような場合は,説明に納得のいかない相続人は,別途民事訴訟をしなくてはならなくなるでしょう。

(3)当該説明を他の共同相続人全員が納得しない場合は,これらの者は民法第906条の2の同意をするでしょうから,同条によって払い戻された預貯金が遺産分割の対象となることになるでしょう。もっとも,払戻しをした当事者と使途を問題として遺産の範囲に含めることに「同意」をした相続人全員との間では,別途民事訴訟での解決が必要な場合もあるでしょう。

 

したがって,①預貯金を払戻した相続人を特定でき,②払戻した預貯金を自分で取得したことに争いがなく,③払い出された預貯金に比して分割時に残っている財産(遺産)が多い場合には,使途不明金問題は遺産分割調停・審判で解決することが容易になったといえます。

もっとも,民法第906条が新設された後も,①当該相続人が預貯金の払戻しを争う場合や,②払戻した預貯金を自己の取得分として認めない場合,また,③引出された預貯金に比して分割時に残っている財産(遺産)が少ない場合には,なお従前どおり民事訴訟での解決が必要になることが多いといえるでしょう。