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改正相続法4 遺留分侵害額請求4(民法第1046条第2項第2号)

改正相続法シリーズの4回目,遺留分侵害額請求4(民法第1046条第2項第2号)です。これで遺留分侵害請求権の回は終了となります。

遺留分侵害額請求はとても専門的でただでさえ理解しにくいのに,このブログでは専門的な情報,知識を書いているので,こんなの書かれてもわからないと思われることが多いかもしれません。

こんなの書いてもわかってもらえないと思いつつ,今回も遺留分侵害額請求の最後を飾るにふさわしい,難易度かなり高めの内容となっております。

 

 

まず,今回は遺留分侵害額の計算方法が前提知識として必要なので,計算式を載せておきます(詳しくは遺留分侵害額請求2参照)。

Ⅰ 遺留分侵害額=遺留分額(A)

-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額(B)

-遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(C)

+遺留分権利者が負担する債務の額(D)

Ⅱ 遺留分額(A)=遺留分を算定するための財産の価額(a)×個別的遺留分

Ⅲ 遺留分を算定するための財産の価額(a)=相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額(①)

+贈与財産(②)

-相続債務の全額(③)

 

 

以下本題

Q まだ遺産分割をしていない遺産分割対象財産があります。遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(上記C)は法定相続分を前提に計算すればいいですか,具体的相続分を前提に計算すればいいですか?

A 遺産分割が既に終了しているか否かを問わず,具体的相続分を前提にして遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(上記C)を計算することになります(ただし寄与分については考慮しない)。

 

改正前は,遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(上記C)を計算するにあたり,法定相続分を前提とするのか,具体的相続分を前提とするのかについて判断が分かれていましたが,新しい相続法によって具体的相続分を前提とすることに定められました。

これは,遺留分侵害額請求が問題となる事案は,通常生前贈与等の特別受益がある場合が多いにもかかわらず,遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額を算定する際に特別受益の存在を考慮しない考え方(法定相続分説)を採用すると,その後に行われる遺産分割の結果との齟齬が大きくなり,事案によっては,遺贈を受けている相続人が,遺贈を受けていない相続人に比して最終的な取得額が少ないという逆転現象が生ずる場合があり,相当ではないと考えられるからです。

 

この説明だけではわかりにくいので,(事例で考えてもわかりにくいですが)事例で考えてみましょう。

相続人は,被相続人の妻A(法定相続分は2分の1),長男B(法定相続分は4分の1),次男C(法定相続分は4分の1)の3人です。

被相続人には1000万の預金がありました。また,長男Bに1000万の現金,第三者Dに8000万相当の土地を遺贈しました。相続時に借金はありませんでした。

法定相続分説を採用した場合

[遺産分割]

Aの具体的相続分=(1000万+1000万)×1/2=1000万

Bの具体的相続分=(1000万+1000万)×1/4-1000万=-500万

Cの具体的相続分=(1000万+1000万)×1/4=500万

Aの取得額=1000万×1000万÷(1000万+500万)≒666万6667

Bの取得額=0

Cの取得額=1000万×1000万÷(1000万+500万)≒333万3333

[遺留分]

Aの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/2-1000万×1/2=2000万

Bの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/4-1000万-1000万×1/4=0

Cの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/4-1000万×1/4=1000万

[結果]

Aの最終的な取得額=666万6667+2000万=2666万6667

Bの最終的な取得額=1000万

Cの最終的な取得額=333万3333+1000万=1333万3333

Dの最終的な取得額=8000万-2000万-1000万=5000万

(注:Bの遺贈についてはBの遺留分の範囲内なので負担なしとなり,遺留分侵害請求を受けるのはDのみとなるので,上記結果となります。受遺者等が相続人の場合の遺留分侵害請求の負担の上限につき,改正相続法3 遺留分侵害請求3を参照。)

法定相続分説によると,上記の結果のように,遺贈を受けたBが遺贈を受けていないCよりも最終的な取得額が少なくなるという逆転現象が起きてしまうのです。

具体的相続分説を採用した場合

[遺産分割]

上記と一緒。

[遺留分]

Aの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/2-666万6667=1833万3333

Bの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/4-1000万-=250万

Cの遺留分侵害額=(1000万+1000万+8000万)×1/2×1/4-333万3333=916万6667

[結果]

Aの最終的な取得額=666万6667+1833万3333=2500万

Bの最終的な取得額=1000万+250万=1250万

Cの最終的な取得額=333万3333+916万6667=1250万

Dの最終的な取得額=8000万-1833万3333-250万-916万6667=5000万

このように,具体的相続分説によると,上記の結果のように,遺贈を受けたBが遺贈を受けていないCよりも最終的な取得額が少なくなるという逆転現象が起きない。

 

なお,上記の計算方法は遺産分割が終了した場合でも変わりません。遺産分割が終了した場合については,現実に分割された内容を前提に控除すべきという考え方もありましたが,これだと,遺産分割手続きの進行状況如何によって遺留分侵害額が変動し,これにより遺留分権利者に帰属した権利の内容が変動することになって相当でないと考えられたからです。

 

以上で,改正相続法の遺留分侵害額請求は終了となります。

これまでの遺留分侵害額請求のブログは以下のとおりです。

改正相続法1 遺留分侵害額請求1(民法第1046条第1項,第1047条第5項)

改正相続法2 遺留分侵害額請求2(民法第1044条第2項,第3項)

改正相続法3 遺留分侵害額請求3(民法第1047条第1項)

改正相続法3 遺留分侵害額請求3(民法第1047条第1項)

今回は改正相続法シリーズの第3回目,遺留分侵害請求3(民法第1047条第1項)です。

今回の改正部分を説明するには,遺留分侵害請求の順序の知識が前提として必要となります。

前提知識

遺留分侵害請求の順序は,遺贈→死因贈与→贈与の順番であり,複数の遺贈がなされた場合には,原則として遺贈の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担します(詳しくは,コチラを参照してください)。

 

それでは本題です。

Q 被相続人の母が死亡し,相続人は私(A)と姉(B)の2人です。母は私に1000万円の預金を遺贈し,第三者(C)に3000万円相当の土地を遺贈しました。複数の遺贈がなされた場合には,原則として遺贈の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担するのですから,私も姉からの遺留分侵害請求に対して応分の負担をしなければいけませんか。

A 受遺者等が相続人であった場合,遺留分侵害額の負担は自己の遺留分を超えた遺贈部分となります。あなたの遺留分は1000万円なので遺留分侵害請求の負担を負うことはありません。

新しい相続法では,受遺者等の遺留分侵害額の負担額は,原則として受遺者等が受け取った遺贈や贈与の目的の価額が上限となりますが,受遺者等が相続人である場合には,その価額からその相続人の遺留分の額を控除した額を上限とすると定められました(民法第1047条第1項)。

受遺者等である相続人も遺留分を有しているのでそれを保護しなければなりませんし,上記取り扱いをしないと遺留分侵害請求の循環が生じてしまい不適切だからです。

なお,上記の例ですと,

A,Bの遺留分=(1000万+3000万)×1/2×1/2=1000万

Bの遺留分侵害額=(1000万+3000万)×1/2×1/2=1000万

 

Bの遺留分侵害額は1000万ですが,Aも1000万の遺留分を有しているので,Aに対して遺留分侵害請求をすることはできずに,Cに対して全額の負担を求めることになります。

 

その他の遺留分侵害請求権の改正については以下を参考にしてください。

改正相続法1 遺留分侵害額請求1

改正相続法2 遺留分侵害額請求2

 

改正相続法2 遺留分侵害額請求2(民法第1044条第2項,第3項)

改正相続法シリーズの2回目,今回は遺留分侵害額請求2(民法第1044条第2項,第3項)です。

今回は少し難易度が高いかもしれません。

 

Q1 被相続人は父,相続人は私と弟の二人なんです。遺産は2000万円の預金なんですが,私の遺留分は2分の1×2分の1の4分の1ですから,遺留分として500万円支払ってもらえるということで間違っていませんよね?

A1 個別的遺留分が4分の1であることは正しいのですが,遺留分として500万円を支払ってもらえるかは,必要事項を確認しないとわかりません。

なんだこの回答は,答えになっていないぞと思われるかもしれませんが,この質問に対してはこう答えざるを得ません。そして実は,遺留分侵害額請求の相談を受けるときに困るのはこの質問だったりします。

最近はインターネットで情報収集されるせいか,個別的遺留分(上記の質問の4分の1)についての知識をもって相談に来られる方が意外と少なくありません(なお,個別的遺留分については,コチラを参考にしてください)。

しかし,そういう人も遺留分侵害額の計算方法についてはご存知ないようです。こういう方の多くは,

遺留分侵害額=相続開始時に被相続人が有した積極財産×個別的遺留分

と考えております。

ところが,遺留分侵害額の計算はそれほど単純ではありません。遺留分侵害額の計算式を示すと以下のようになります。

Ⅰ 遺留分侵害額=遺留分額(A)

-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額(B)

-遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額(C)

+遺留分権利者が負担する債務の額(D)

そして,Aの遺留分額の計算式は以下のとおりです。

Ⅱ 遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額(a)×個別的遺留分

また,aの遺留分を算定するための財産の価額は必ずしも相続開始時に被相続人が有した積極財産に限りません。あえて計算式にすれば以下のようになります。

Ⅲ 遺留分を算定するための財産の価額=相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額(①)

+贈与財産(②)

-相続債務の全額(③)

そこで,遺留分侵害額を計算するには,まずaの遺留分を算定するための財産の価額を計算し(Ⅲ),その後に遺留分額を計算し(Ⅱ),最後に遺留分侵害額を計算する(Ⅰ)ことになります(遺留分侵害額の計算方法については,コチラも参考にしてください。)。

このように書かれても内容についてはなかなか理解されないと思いますが,単純な計算ではないことはご理解いただけると思います。

加えていえば,後述するように②の贈与財産には加算できる贈与財産と加算できない贈与財産がありますので,相談者のケースはどうなのか,加算できる贈与財産があるのか等を聞き取らないといけないのです。

実際に遺留分侵害額の計算は我々でも厄介なものです。ところが,多くの方はそんなことは知りませんから,前述の質問をされるわけです。そして私から前述のようによくお話を伺って必要事項を確認しないとわかりませんといわれると,怪訝な,大丈夫なのこの先生?という顔をされます。結果,私も困ったなと思うということになります。

 

Q2 遺留分を算定するための財産の価額(上記a)に加算される贈与財産(上記②)には,相続人への贈与も全て加算されるのですか?

A2 相続人への贈与は,(ⅰ)特別受益となる贈与であり,かつ(ⅱ)原則として相続開始前の10年間にされたものに限り加算されます(民法第1044条第2項,第3項)。

aの遺留分を算定するための財産の価額とは,いうなれば遺留分を計算するための被相続人の財産のパイ(π)といえます。

法は,相続時に存在する積極財産のみならず,本来は相続時の積極財産であったものもパイに含めることにしています。

このように考えずに相続時に存在する積極財産のみをパイとしますと,被相続人が生前に遺留分権利者を害するために自己の財産をどんどん贈与してしまった場合,相続時には積極財産がほとんどなくなってしまうので,遺留分はとても小さくなってしまいます。そのような結果は,遺留分権利者に酷といえますし,ひいては遺留分制度が無意味となってしまいます。

そのため相続前になされた贈与財産もパイに含めるのですが,贈与財産であればなんでもパイに含める,加算するというわけではありません。

法は,贈与の相手方が第三者である場合と相続人である場合にわけて加算する贈与の範囲を定めています。

まず,贈与の相手方が相続人以外の第三者であった場合,原則として相続開始前の1年間にされた贈与のみが加算されることになります。もっとも,遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与された場合には,相続開始の1年前の日より前にした贈与も加算されます。

次に,贈与の相手方が相続人であった場合は,(ⅰ)特別受益となる贈与であり,かつ,(ⅱ)原則として相続開始前の10年間にされたものに限り加算されることになります。もっとも,遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与された場合には,相続開始の10年前の日より前にした贈与も加算されます。

改正前は,贈与の相手方が相続人であった場合,判例により特別受益であれば期限なく加算されることになっていました。このようにしませんと,各相続人が被相続人から受けた財産の額に大きな格差がある場合にも特別受益の時期いかんによってこれを是正することができなくなってしまうからです。相続人間の実質的公平を重視した考え方です。

しかし,この判例の考え方によると,被相続人が相続開始時の何十年も前にした相続人に対する贈与の存在によって,第三者である受遺者又は受贈者が受ける侵害額請求の範囲が大きく変わることになりますが,第三者である受遺者又は受贈者は,相続人に対する古い贈与の存在を知りえないのが通常であるため,第三者である受遺者又は受贈者に不測の損害を与え,法的安定性を害するおそれがありました。

そこで,新しい相続法では,上記相続人間の実質的公平と受遺者等の法的安定性という相反する2つの要請の調和の観点から,加算する相続人への贈与を相続開始前の10年間に限ることにしました。これは実務上大きな改正です。

こういわれても難しくその違いがピンとこないかもしれませんが,次の事例を見ていただくと,改正の意味の大きさを理解していただけると思います。

相続人は,被相続人の妻A(法定相続分は2分の1),長男B(法定相続分は4分の1),次男C(法定相続分は4分の1)の3人です。

被相続人は,遺言で唯一の財産であった6000万円相当の土地を第三者Dに遺贈をしました。相続時に借金はありませんでした。

また,長男Bには30年前に1億円の生前贈与をしておりました。

遺産分割はしておりません。

この事例で第三者Dへの遺留分侵害請求をする場合は以下のようになります。

改正前

Aの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/2=4000万

Bの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/4-1億=-8000万

Cの遺留分侵害額=(6000万+1億)×1/2×1/4=2000万

Aの最終的な取得額=4000万

Bの最終的な取得額=1億(侵害額請求なし)

Cの最終的な取得額=2000万

Dの最終的な取得額=0円(すべて侵害額請求される)

改正後

Aの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/2=1500万

Bの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/4-1億=-9250万

Cの遺留分侵害額=6000万×1/2×1/4=750万

Aの最終的な取得額=1500万

Bの最終的な取得額=1億(侵害額請求なし)

Cの最終的な取得額=750万

Dの最終的な取得額=3750万(6000万-1500万-750万)

 

改正前ですと,30年前のBへの特別受益が加算される結果,最終的な取得額は相続人間では2000万~1億の幅でとどまった一方で,受遺者Dは0円となってしまいました。

しかし,改正後は,30年前のBの特別受益が加算されない結果,最終的な取得額は相続人間では750万~1億の幅にまで拡大してしまいましたが,一方で受遺者Dは3750万を確保できることになりました。

相続人間の実質的公平を後退させつつも受遺者等の法的安定性を確保しようとした改正法の趣旨がこのような結果となって表れることになります。

 

改正相続法1 遺留分侵害額請求1

 

改正相続法1 遺留分侵害額請求1(民法第1046条第1項,第1047条第5項)

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が平成30年7月13日に公布され,原則として令和元年7月1日から施行されました。これにより相続法が改正されることになりました。

相続は身近な法律問題ですので,今回の改正は多くの方に影響を及ぼすものといえます。しかし,改正されてからあまり日が経っていないせいか,インターネットを見ても正確な情報を収集することが難しい状況にあるようです。

そこで,新しい相続法についての正確な知識,情報をブログの中でお伝えしたいと思います。

もっとも,改正相続法を網羅的に解説するのではなく,私なりに実務上重要だなと思う部分についてブログで紹介したいと思っております。また,改正部分に特化することなく,相続法に関して伝えたい内容についてもできる限り紹介していきたいと思います。

記念すべき改正相続法シリーズの1回目は遺留分侵害額請求1(民法第1046条第1項,第1047条第5項)です。

 

まずは前提知識から

Q 遺留分とはなんですか。

A 遺留分とは,被相続人の財産の中で,法律上その取得が一定の相続人に留保されていて,被相続人による自由な処分(贈与・遺贈)に制限が加えられている利益のことをいいます。

例えば,被相続人が相続人A・Bの内のAに遺産全てを相続させると遺言したとします。

本来,自分の遺産をどう処分しようが被相続人の自由なのですが,相続人Bは被相続人が死んだら遺産の一部をもらえるはずと期待するのが一般でしょう。

法はこの期待を保護するために,遺留分権利者に一定の利益すなわち遺留分を認めています。

その他の遺留分侵害額請求に関する知識はコチラを参考にしてください。

 

それでは本題です。

Q1 遺留分侵害額請求をするとお金を払ってもらえるの?

A1 はい,お金を払ってもらえます。

いきなり変な質問だと思われるかもしれませんが,実はコレが遺留分制度の最大の改正部分です。

といいますのは,相続人Aに土地を遺贈させるという遺言があり,遺留分権利者のBがその遺贈は自分の遺留分を侵害しているとして遺留分侵害額請求をした場合,改正前ですと,Bは当該土地の持分を取得することになっていました。(ちなみに,改正前の遺留分侵害額請求の名前は遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)という名前でした。)

取得するのは遺贈・贈与の目的物の持分であり,お金をはらってもらうという債権ではありませんでした。お金が欲しいときには価額弁償というかたちでAに支払ってもらっていました。

ところが,今回の相続法改正により,遺留分を侵害されたBはAに対してお金を支払えという債権を取得することになりました。

逆にいうと,先ほどの例でBは遺留分侵害額請求をしても土地の持分は取得できない,取得できるのはあくまでもお金だけということになります。

なぜこのように遺留分侵害額請求の行使により発生した権利が金銭債権化したのかといいますと,事業承継を円滑に行うためと,共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生じないようにするためです。

個人事業主が長男Aに事業を承継してもらうために遺産の殆どを占める工場の土地,建物,機械等の事業用財産をAに相続させるという遺言を書いたとき,次男Bが遺留分侵害額請求をすると,改正前ですと工場の土地等についてA・Bの共有状態が生じてしまいますが,これですと事業用財産を担保にお金を借りるにもBの協力が必要となり,事業承継が円滑にすすみません。

円滑な事業承継は日本経済にとって喫緊の課題ですから,遺留分侵害額請求によって事業承継がすすまないというのでは困るわけです。そこで,今回の改正によって遺留分侵害額請求の行使によって発生した権利を金銭債権化したということになります。

 

Q2 遺留分侵害額請求を受けたんだけど,突然のことでお金を用意できないです。どうしたらいいのですか?,また請求を受けたときから遅延損害金を支払わなければならないの?

A2 裁判所に相当の期限を許与してもらうことで,支払時期を伸ばしてもらうことができますし,期限までは遅延損害金は発生しません(1047条5項)。

 

遺留分侵害額請求の行使によって発生した権利の金銭債権化によって受遺者又は受贈者は遺留分権利者にお金を支払わなければなりませんが,直ちにはお金を用意できないことがありえます。そのようなときに,お金を支払えないからといって遅延損害金が発生してしまうと受遺者又は受贈者にとって酷な場合がありえます。

そこで新しい相続法では,受遺者又は受贈者の負担が過大なものとならないようにするため,裁判所に請求して支払い期限を相当期間猶予してもらえるという期限の許与の制度を新設することにしました。

この相当の期限の許与制度は遺留分侵害額請求権の行使によって発生した権利の金銭債権化とセットということがいえるでしょう。

離婚と税金 2

前回に引き続き,離婚と税金についてお話します。

前回は,財産分与を受ける者の税金問題についてお話しましたが,今回は,財産分与をする側の税金問題です。

A1 財産分与をすると譲渡所得税がかかるのですか。

Q1 財産分与をする資産の種類によっては,譲渡所得税がかかる場合があります。

所得税法33条1項の「資産の譲渡」は,有償無償を問わず,資産を移転させる一切の行為をいうものとされており,財産分与としてなされた不動産譲渡に対する譲渡所得課税を適法とした裁判例もあります。

そのため,分与する資産の時価が,その資産を取得した時の価額より高くなっていれば,譲渡所得税や住民税が課されることになります。

なお,逆に,分与時の時価がその資産を取得した価額よりも下がっていれば所得税が課されることはありません。

 

 

A2 譲渡所得税がかかる資産の種類にはどのようなものがあるのですか。

Q2 不動産,書画骨董,絵画,宝石,自動車,船舶,機械器具,ゴルフ会員権,特許権,著作権等がありますが,金銭,貸付金,売掛金などの金銭債権はあたりません。

現物給付をする際には譲渡所得税が発生する場合がありますが,金銭給付をする際には譲渡所得税は発生しませんので,財産分与をする側にとっては,金銭給付をもって財産分与の給付とした方が,税法上有利といえます。

おかげさまで3周年

本年2月1日を持ちまして,弊事務所もおかげさまで3周年を迎えました。

企業による生存率は,1年で50%,3年で50%,5年で15%,10年で3%,30年になると0.02%ということを聞いたことがあります。

もちろん,業種によっても異なり,飲食店ですと,1年で70%,3年で30%,5年で10%,10年で5%なんだそうです。

弁護士業界はそれほど厳しくはないのかもしれませんが,楽観は決してできないというのが業界内の多数意見だと思います。

ある企業の社長さんから,先生少なくとも3年は続けなくては,3年続けたらそのまま続けられるよと言われたことがございます。

是非,その社長さんのお言葉通りになってもらいたいと思います。

3年経ちますと,殺風景と言われた相談室に絵画も飾られるようになります。

 

志村一男先生の「河原」。

多摩川の夕暮れ時,河の水と葦が夕日に照らされている,美しい夕映の情景が描かれております。

忙しさに追われる日々は相変わらずですが,夕日を眺める気持ちの余裕ぐらいは持ちたいなと思います。

今後も,柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様に支えていただきながら,良質な法的サービスを提供することで,地元柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様に貢献していきたいと思います。

4年目も,石塚総合法律事務所をどうぞ宜しくお願いいたします。

離婚と税金1

離婚に関する相談者様やご依頼者様から,税金に関する質問も,まま受けることがあります。

そこで,今回のブログのテーマは離婚と税金にしたいと思います。

1回目は,財産分与で財産の給付を受ける者についての税金問題をお話します。

 

Q1 財産分与により財産をもらった場合,贈与税や所得税を支払わなければならないのですか?

A1 (原則)支払わなくても大丈夫です。

財産分与は,相手方から贈与を受けるのではなく,夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づいて,給付を受けるものであり,贈与又は所得ではありません。

したがって,分与を受けた者は,所得税を支払う必要はありませんし,原則として贈与税も支払う必要はありません。

もっとも,①分与された財産の額が,婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額や,そのほか全ての事情を考慮してもなお多過ぎる場合や,②離婚が贈与税を免れるために行われたと認められる場合には,贈与税がかかることになります。

 

 

Q2 財産分与により不動産を取得した場合,不動産取得税を支払わなければならないのですか?

A2 財産分与が清算的財産分与であるときは,多くの都道府県において不動産取得税を課税しない取り扱いをしていますので,不動産取得税を支払わなくてもいい場合が多いでしょう。

不動産を取得した場合,不動産を取得した者に対して,その不動産の所在する都道府県から不動産取得税が課税されます。

ただし,財産分与により不動産を取得した場合において,その財産分与が清算的財産分与であるときは,多くの都道府県において不動産取得税を課税しない取り扱いがなされています。

 

 

Q3 財産分与により不動産を取得したのですが,その年の固定資産税・都市計画税を支払わなくてはなりませんか?

A3 (財産分与が1月1日になされたのでない限り)支払わなくていいです。

固定資産税は,その不動産の所在する市町村が毎年徴収するものです。都市計画税は,その不動産が都市計画区域内の市街化区域内にある場合に,課税されます。

固定資産税も都市計画税も,毎年1月1日の時点における不動産の所有者に課税され,納税義務者は同時点における不動産の所有者です。

そのため,財産分与によって不動産を所有した者は,(財産分与が1月1日になされたのでない限り)固定資産税・都市計画税の納税義務者ではないので,これらの税金を支払わなくていいことになります。

 

 

Q4 離婚前に財産を分与しても,贈与税はかからないのですか。

A4 離婚前の財産の分与は,贈与になりますので,贈与税はかかります。

財産分与を離婚前にすることはできません。離婚を条件とした贈与であっても,それを離婚前に実行すれば,財産分与ではなく贈与ですので,贈与税はかかってきます。

そのため,離婚前に財産を分与する場合には,贈与税の基礎控除額である110万円を意識する必要が出てくることになります。

離婚のために別居中の児童手当の行方

今回も,離婚についてのブログです。

離婚の関するご相談者様又はご依頼者様からよく質問されることの一つに,児童手当に関する質問がございます。

今回は,この別居中の児童手当についてのお話です。

まずは,前提知識から,

Q1 児童手当とはなんですか。

A1 児童手当とは,児童を養育する家計の負担を軽減し,あわせて児童の健やかな成長に資することを目的として支給される手当のことをいいます。

(受給資格)

児童手当は,中学校3年生(15歳になった日以後の最初の3月31日)までの児童を養育している人に支給されます。

(支給月額)

  • 0歳から3歳未満 (一律)  15,000円
  • 3歳から小学校修了前 (第1子・第2子)  10,000円
  • 3歳から小学校修了前 (第3子以降)  15,000円
  • 中学生 (一律)  10,000円
  • 所得制限限度額以上世帯、児童1人につき  5,000円(※)

(※)児童手当には所得制限がありますので,一定の所得を有する人は,「特例給付」として、児童1人につき、月額5,000円が支給されます。

(支給時期)

2月・6月・10月の各10日(土曜・日曜・祝日の場合はその直前の金融機関営業日)に,それぞれの前月分までの手当が支給されます。

 

Q2 離婚のために別居をしました。今まで児童手当は夫の口座に振込まれることになっていました。別居して子供を養育しているのは自分なので,夫に振込まれる児童手当を自分の口座に振り込まれるようにしたいのですが,できますか?

A2 できます。

実は,よく質問されるというのは,このQ2に関する質問です。

児童手当は,児童を養育する保護者のうち,家計の主たる生計維持者に支払われることになっています。そのため,夫婦二人で子育てをしている場合や,単身赴任を理由に別居している場合には,所得の高い人に支払われます。夫の方が所得が高いことが多いため,多くの家庭では夫名義の口座に振り込まれています。

しかし,離婚準備中などの理由で別居をしている場合には,子供と一緒に住んでいる方に児童手当が支払われるとされています。

そのため,離婚のために別居をしている妻が子育てをしている場合には,児童手当は妻に支払われるべきといえるのです。

 

Q3 Q2の場合に,児童手当の振込先口座を夫から自分(妻)に変更するにはどうしたらいいですか。

A3 妻の住所地の役所に,①「児童手当などの受給資格に係る申立書」と,②「協議離婚申し入れに係る内容証明郵便の謄本・調停期日呼び出し状(写し)・家庭裁判所による係属証明書・調停不成立証明書」のいずれかを提出すれば足ります。

①は各役所に備え付けておりますので,そちらを利用されるといいでしょう。

②についてですが,夫婦関係等調整(離婚)調停を申し立てているときの,調停期日の呼び出し状などを提出することになります。

当職が離婚調停を手続代理している場合,ご依頼者様には,調停申立書の写しを代わりに提出してもらうことが多いです。柏市,松戸市の近隣の役所のみならず福島県郡山市でも同様の対応をしてもらっていましたので,おそらくどこの役所でも②として扱ってくれると思います。

 

Q4 Q3によって,児童手当を受給すると,婚姻費用算定の際の収入に影響がありますか。

A4 ありませんので,安心して児童手当を受給してください。

これは少し応用的知識です。婚姻費用(生活費)を調停ないし審判で決める際,双方の収入が考慮されます。

請求する側の収入が低く,請求される側の収入が高ければ,つまり収入の格差が大きければ多いいほど,認められる婚姻費用は高くなります。

Q4の質問は,離婚準備のために別居中の妻が児童手当を受給することで,その分収入が高くなるとして,認められる婚姻費用が低くなってしまわないか,というものです。

しかし,婚姻費用の収入に児童手当の受給分は考慮しないという扱いをしていますので,安心して,早めにA3の児童手当の受給資格の申立てをしてください。

妻側に立って婚姻費用分担請求調停の手続代理をしている際,児童手当の受給資格の変更をすると,結構な確率で相手方である夫から,児童手当をもらえるようになったのだから,その分婚姻費用を減額してもいいはずだと言われることあるのですが,そのような夫の言い分は通らないのです。

柏市役所で養育費等の法律相談をしました

先日,柏市の養育費等の法律相談をするために,柏市役所内にある,こども部こども福祉課に行ってきました。

弁護士は,弁護士会から,各市が主催する法律相談の担当者として,派遣要請を受けることがあります。私は,千葉県弁護士会松戸支部に所属しておりますので,同支部の管轄する市に派遣されます。

これまでも,野田市の法律相談,鎌ケ谷市の法律相談に派遣されたことがありますが,今回はお膝元の柏市の法律相談,特に養育費を中心とした法律相談に派遣されたわけです。

通常,各市の主催する法律相談の相談時間は30分単位であることが多いのですが,柏市の養育費等の法律相談は60分単位と,長い時間が確保されています。

養育費等の法律相談という相談内容からして,お子さん連れの相談者が多いところ,お子さんを連れての相談だとゆっくり相談ができないと考えて,あえて長めの相談時間を設定しているのかもしれません。相談者,特にお子さんを連れての相談者に優しくて,とてもいいことだと思います。

ただ,当職の一般的な相談時間は30分です。これは,30分あればひと通りの回答をすることができる(はずだ)からです。もちろん,事案によっては,60分以上かかることもありますが,そのような相談は少ないといえます。

そのため,普段どおり相談を受けていたら,どの相談も時間が30分以上余ってしまいました。これは,私が,事務所においても,お子さん連れの相談を可能にしているため,お子さんを連れての相談に慣れているからかもしれません。

どの相談者の方も,「よくわかりました。」とおっしゃっていただきました。事務所外でも相談をするというのは,市民の方々に貢献する機会が増えるということを意味しますので,私としては市の法律相談を大切に考えおり,今後も続けていきたいと思っております。

同期のJ

先日,ある裁判所に向かう途中,同期に会いました。

すれ違った瞬間,あれ?と思い後ろを振り返ると,相手も後ろを振り返っていて,「やっぱり」,「おぉ」という感じ。

優秀な彼女。当初P志望でしたが,お誘いがありJになったと記憶しています。今は育休中だそうで,ベビーカーにかわいい男の子を乗せていました。

なお,ここでいうPとは検察(Prosecutor)のこと。Jとは裁判官(Judge)のことです。因みに弁護士はA(Attorney)ではなくて,B(Bengoshi)と呼びます。Aだと,被疑者、被告人(Accused)と被るからと聞いたことがありますが,本当なのかよくわかりません。ただ,結論として,弁護士はBでいいんじゃないと,どこか抜けた決め方をしたところが,法曹界らしくて妙にしっくりします。

以前から,その裁判所の破産を中心に仕事をされていると聞いていたので,「(当該裁判所に)破産手続を申立てるのに抵抗を感じていたんだけれど,実は3件申立てる予定なんだよねぇ」と話しました。同期に書面を見られるのは,恥ずかしいというか,少し緊張します。実務についてからの成長をチェックされるような気持ちになるからでしょうか。

すると,Jの彼女も,「わかります,わかります,知っている人の事件を担当するとなんか変な感じですよね」と同意してくれ,そして「育休明けは,違う裁判所に行く予定ですから(大丈夫ですよ)。」と笑っていました。

期日があったので,あまり長くお話をすることはできませんでしたが,思いかけず楽しい時間を過ごすことができました。