石塚弁護士ブログ

改正相続法17 配偶者居住権4

今回は、改正相続法17 配偶者居住権4です。

これまでは配偶者居住権について説明してきましたが、今回からは配偶者短期居住権の説明となります。

 

Q1 夫が亡くなって、子供たちと遺産分割協議をしています。協議はなかなか進まずに既に1年以上協議しています。私は夫が所有していた自宅で夫と二人で暮らしていたのですが、遺産分割協議をしている間も自宅に住んでいていいのでしょうか。

A1 配偶者短期居住権が認められる場合には、遺産分割協議中、自宅に住んでいても問題ありません。

配偶者短期居住権とは、配偶者が被相続人の建物に無償で居住していた場合には、被相続人が死亡してから一定の短い期間については、居住建物の使用を認める権利のことをいいます。

この配偶者短期居住権も、改正相続法により新設された権利ですが、この権利が新設されたのは以下の政策的な理由からです。

配偶者が被相続人所有の建物に居住していた場合に、被相続人の死亡により、配偶者が直ちに住み慣れた居住建物を退去しなければならないとすると、配偶者に酷な結果となるので、配偶者を保護するためです。

同権利が新設される前は、平成8年12月17日の判決によって、配偶者は被相続人との間で、相続開始時を始期、遺産分割時を終期とする使用貸借契約を成立していたという解釈を行って、配偶者を保護する判断を行っていました。

今回の改正よって、解釈ではなく法律上の権利として認められることになりました。

 

Q2 配偶者短期居住権が成立するための要件は何ですか。

A2 配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたことが成立要件となります。

 

配偶者短期居住権が成立するためには、配偶者が被相続人の生前に居住建物を無償で使用していたことが必要です。

有償で使用していた場合、例えば被相続人と賃貸借契約を締結していた場合には、賃貸人の地位を相続人が承継することになるため、配偶者短期居住権という特別の権利を認める必要が乏しいかです。

 

Q3 配偶者短期居住権はいつまで存続するのですか。

A3 配偶者短期居住権の存続期間は、①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合と、②それ以外の場合で異なります。

まず、①の場合(すなわち配偶者が居住建物に遺産共有持分を有している場合)には、⑴遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日まで存続します。

次に、②の場合(すなわち配偶者が居住建物について遺産共有持分を有していない場合)には、居住建物取得者による配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6カ月を経過する日まで存続します。

①の場合に、遺産分割終了時とせずに、相続開始の時から6カ月を経過する日との比較でいずれか遅い日と定められたのは、早期に遺産分割が終了してしまった場合に、配偶者において退去の準備ができていないということがあり得るので、退去まで一定の期間を猶予したこと等が理由です。

②の場合は、居住建物が配偶者以外の相続人や第三者に遺贈されたような場合が想定されます。このような場合、消滅の申入れから6カ月あれば、配偶者も退去できるだろうと考えられております。

 

Q4 配偶者居住権の場合、権利取得を第三者に対抗するために登記することができましたが、配偶者短期居住権を取得した場合も登記をすることができるのですか。

A4 いいえ、配偶者短期居住権については登記制度はありません。そのため、居住建物の取得者が第三者に居住建物を譲渡してしまった場合、配偶者は当該第三者に配偶者短期居住権を対抗することはできません。その代わりに、配偶者は居住建物取得者に対して損害賠償請求をすることができます。

 

配偶者短期居住権は、あくまでも配偶者を債権者、居住建物取得者を債務者とする使用借権類似の法定債権ですし、配偶者居住権所なりその期間は短期にとどまります。そのため、対抗要件制度を設けていません。したがって、居住建物の第三取得者に権利を対抗することはできません。

配偶者短期居住権者は、居住建物取得者が第三者に居住建物を譲渡した場合には、居住建物取得者に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができます。

 

Q5 配偶者短期居住権者が、遺産分割によって配偶者居住権を取得した場合、配偶者短期居住権と配偶者居住権の二つを有することになるのですか。

A5 いいえ、配偶者短期居住権の消滅原因のひとつに配偶者による配偶者居住権の取得がありますので、配偶者短期居住権は消滅し、配偶者居住権飲みが残ることになります。

配偶者短期居住権よりも配偶者居住権の方が強力な権利であり、配偶者短期居住権を残す意義はないからです。

配偶者短期居住権の消滅原因としては、①存続期間の満了(第1037条第1項)、②居住建物取得者による消滅請求(第1038条第3項)、③配偶者による配偶者居住権の取得(第1039条)、④配偶者の死亡(第1041条、第597条第3項)、⑤居住建物の全部滅失当(第1041条、第616条の2)等があります。

 

以上で配偶者居住権は終了です。これまでの説明はコチラ。

改正相続法14 配偶者居住権1

改正相続法15 配偶者居住権2

改正相続法16 配偶者居住権3

 

この記事を書いた人

弁護士 石塚 政人
千葉県柏市出身
2017年 千葉県柏市に石塚総合法律事務所開所

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