前回の「調停離婚後の手続1 調停離婚成立後の離婚届について」に続いて,今回も調停離婚成立後の手続についてご説明します。今回は,調停離婚成立後の年金分割についてです。
前提として,年金分割の基礎知識から確認しましょう。
Q1 年金分割とはなんですか。
A1 年金分割とは,いわば年金の納付実績を半分に分けることをいいます。
夫(妻)の給料から厚生年金が支払われるため,外形的には夫(妻)が年金を支払っていて,その扶養家族である妻(夫)は年金を支払っていないようにみえます。しかし,そもそも夫(妻)がその年金を支払えたのは,妻(夫)が家事等をしていたからなのであり,その支払っている年金の相当分は,実質的には妻(夫)が支払っていると評価できるので,夫(妻)が支払っていた年金実績を,離婚時に妻(夫)にも分けるよう請求する制度,これが年金分割です。
Q2 年金分割にいう,合意分割と3号分割の違いは何ですか。
A2 合意分割は合意によって分割の割合を決める年金分割の方法をいいます。3号分割は合意によらずに,年金分割を求める者の請求のみで,当然に分割の割合が5:5と決まる年金分割の方法をいいます。
合意分割は「合意」で分割の割合を「(上限はありますが)自由に決めることができます」。しかし,3号分割は「一方当事者の請求」で足りるのですが,分割の割合を自由に決めることができず,「当然に分割割合は5:5」に決まります。もっとも,合意分割における分割の割合も殆ど「5:5」で決まることが多いので,その違いはあまりないといえるでしょう。
それぞれの年金分割が認められるための要件は,当ホームページの弁護士が教える離婚について知っておきたい基礎知識中の熟年離婚の項目(https://ishizuka-law.jp/rikon/jukunen/)を参照していただきたいと思います。
ただ,調停離婚で問題となるのは,通常は,合意分割です。3号分割が可能であれば,調停によることなく,分割請求をすれば足りるからです。
年金分割自体の説明は,以上のとおりです。
次に,本題の調停離婚後の年金分割の手続を説明します。
Q3 調停で年金分割について合意したのですが,これで手続は終了ですか。
A3 いいえ,年金事務所等で年金分割の請求をして下さい。
調停で年金分割について話し合い,調停調書に年金分割の割合を定めた条項を入れても,これで年金分割の手続が終了したことにはなりません。年金事務所など(厚生年金の手続きを取り扱う役所・機関)で年金分割の請求をして下さい。
Q4 年金事務所には,相手方当事者と一緒に行かなくてはいけませんか。
A4 調停調書謄本(調停調書省略謄本)があれば,独りでも大丈夫です。
合意分割の場合は,原則当事者双方が年金事務所等に行かなくてはなりません。しかし,調停で年金分割について話し合い,調停条項に年金分割の割合を定めた場合,調停調書謄本(調停調書省略謄本)があれば,独りで手続をすることができます。
その他に,年金手帳や分割当事者が婚姻関係にあったことを示す戸籍謄本も必要となります。
Q5 年金事務所に行くのは,どちらの当事者ですか。
A5 決まりはありませんが,通常は年金分割を請求する者となるでしょう。
年金分割を請求する者が年金事務所に行くので,年金分割を請求する者は,調停成立時に,調停調書謄本(調停調書省略謄本)の交付ないし郵送の手続をとる必要があります。家事事件における調停調書は,判決書謄本とは異なり,当然には交付ないし郵送されませんので,年金分割を請求する者は,自ら交付ないし郵送の手続をとるように注意して下さい。
もっとも,通常は,家庭裁判所の書記官が,交付ないし郵送の手続をしますかと尋ねてくるので,調停調書謄本(調停調書省略謄本)を取得し忘れることは少ないかもしれません。
Q6 年金事務所に行くのは,いつでもいいのですか。
A6 年金分割請求は,離婚成立日から2年間の間にする必要があります。もっとも,離婚前の配偶者が死んでしまうと,(離婚成立日から2年経たなくとも,)同人が死亡してから1ヶ月以内に請求しなければなりません。
年金分割請求には2年という時効期間がありますので,間違いなく,離婚が成立してから2年間の間に年金分割請求をする必要があります。
もっとも,離婚前の配偶者が死んでしまうと,離婚から2年を待たずに,死亡から1ヶ月が期限となります。死亡の事実を知らなくても,関係ありません。ですから,2年間の間に年金分割を請求すれば足りると思わずに,離婚が成立したら,すみやかに年金分割請求をして下さい。
目次
「調停離婚後の手続」連載
調停離婚後の手続2 調停離婚成立後の年金分割について