石塚弁護士ブログ

改正相続法9 特別の寄与1(民法第1050条)

今回は改正相続法9 特別の寄与1(民法第1050条)です。

 

改正相続法によって,今回から説明する特別の寄与制度が新設されました。

同制度によって,相続人以外の親族が被相続人に療養看護した場合も,その親族は相続人に療養看護した分(特別の寄与分)のお金を払ってくれと請求することができるようになりました。

相続人による「寄与」とは異なり,相続人ではない者の寄与なので「特別の寄与」というのでしょう。

同制度は,相続人以外の親族の貢献を正当に評価することができるようになったというプラス面はありますが,ともすれば相続問題の終局的解決が長引くというマイナス面もあるように思われ,実務家としては少し複雑な気分になります。

 

それでは本題です。

 

Q1 妻は,長年,働いてなかなか世話をしてやれなかった私に代わって,私の母の世話をしてくれていました。母が死亡した今,共同相続人の弟に対して,妻の貢献分を考慮してくれといえないものでしょうか。

A1 奥様は被相続人であるお母様にとって,相続人ではない親族なので,その療養看護が特別の寄与といえれば,弟さんにお金を支払ってくれと請求できます。

 

被相続人に対して療養看護等の貢献をした者が相続財産から分配を受けることを認める制度としては寄与分の制度があります。(寄与分の制度についての説明はコチラの「寄与分について」を参考にしてください。)

しかし,同制度は相続人にのみ認められた制度であるため,説例のような相続人の配偶者の貢献は同制度では評価できませんでした。

そのため,①準委任契約に基づく報酬・費用償還請求,②準事務管理に基づく費用償還請求,③不当利得返還請求等といった法律構成を使って,相続人以外の者の貢献を保護することが行われていました。

しかし,いずれも問題があり,同貢献に対して十分な保護が図れているとは言えない状況だったのです。

そのため,特別の寄与の制度をつくり,相続人以外の者の療養看護分について相続人に金銭請求をすることができるようになりました。

 

 

Q2 夫とは事実婚であり,婚姻届は提出していません。しかし,寝たきりになった夫を長年世話をしたのは私であり,相続人である彼の子供たちではありません。私の療養看護は特別の寄与として認められますよね。

A2 残念ですが,特別の寄与の請求権者は被相続人の親族に限られていますので,事実婚の配偶者は特別の寄与を請求することはできません。

 

特別の寄与の請求権者は,被相続人の親族(六親等内の血族,配偶者,三親等内の姻族)に限られております(親族とは何かについてはコチラの「法律上の親族」を参考にしてください。)。

特別の寄与制度については国会の審議の過程で,請求権者に事実婚や同性カップルのパートナーも含めるべきではないかと議論がありました。

しかし,例えば事実婚については,事実婚に当たるか否か自体,様々な要素を総合的に考慮して判断する必要があるため,これらも請求権者に含めるとすると,その該当性をめぐって当事者間で主張・立証が繰り返されるなどして相続を巡って紛争が複雑化,長期化する恐れがあるとして,請求権者に含まれないことになりました。

被相続人の親族は,被相続人と一定の人的関係にあるがゆえに,被相続人との間で,療養看護について報酬を与えるといった有償契約を締結することが類型的に困難であるため,特別の寄与制度で救助するというのも理由になっています。

したがって,特別の寄与制度の請求権者は,被相続人を療養看護した者であれば誰でもいいのではなく,あくまでも被相続人の親族に限られます。

 

Q3 私の妻の父(義父)は,長年,寝たきりになった私の母の医療費や施設入所費を負担してきました。母が死亡した今,義父は共同相続人の弟に対して特別の寄与を主張することができますか。

A3 義父は相続人ではない親族ですが,特別の寄与における寄与行為の態様は被相続人に対する無償の労務の提供に限られており,金銭等出資型の寄与は含まれませんので,特別の寄与を主張することはできません。

 

相続人の寄与制度における寄与の態様については,①家事従事型(被相続人の事業に関する労務の提供),②金銭等出資型(医療費や施設入所費の負担等),③療養看護型(同居し,家事の援助を行うなどの療養看護),④扶養型(生活費の負担,衣食住の面倒といった扶養),⑤財産管理型(不動産の賃貸管理など)があります。

しかし,相続人以外の親族の特別の寄与制度における寄与の態様については,「無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと」に限られています(無償での家事従事型や無償での療養看護がこれにあたる)。

これは特別の寄与制度は紛争の長期化,複雑化の懸念があるため,認められるべき寄与行為を制限すべきという考えを背景として,無償の役務の提供については特別の寄与を認めるべき必要性が高いのに対して,事業資金の提供などの金銭等出資型については,給付時に返還の要否等を被相続人と取り決めることは比較的容易であるから,特別の寄与を認めるべき必要性は低いという価値判断にもとづいています。

なお,ここで,特別の寄与制度が認められるための要件を明確にしておきましょう。要件は以下のとおりです。

① 被相続人の親族であること

② 無償で療養看護,その他の労務を提供したこと

③ 被相続人の財産の維持又は増加があること

④ ②と③との因果関係があること

⑤ 特別の寄与と認められること

Q2は①,Q3は②の要件に関する質問だったことがわかると思います。

なお,①の要件については,被相続人の親族である事の判断基準時は何時なのかという問題や,②の要件については,無償であるか否かはどのように判断するのか,例えば,被相続人が労務を提供していた者の生活費を負担していた場合も労務と言えるのかという問題があります。

(一応上記の答えは,相続開始時であり,相続開始時に親族ではなかったなら(相続開始時には離婚していた元妻),特別の寄与の請求権者とはなりません。)

(個別具体的事案によりますが,被相続人の要介護状態以前から生活費を負担していたのであれば,療養介護の無償性は認められやすくなるでしょう。)

 

この記事を書いた人

弁護士 石塚 政人
千葉県柏市出身
2017年 千葉県柏市に石塚総合法律事務所開所

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