石塚弁護士ブログ

改正相続法8 遺産の一部分割(民法第907条)

今回は,改正相続法8 遺産の一部分割(民法第907条)です。

 

Q1 父の遺産は自宅(土地・建物)と預貯金です。共同相続人の弟と自宅の帰属をめぐっては意見が対立していますが,預貯金については法定相続分どおり半分にしようと意見が一致しています。とりあえずお金が必要なので,預貯金のみ遺産分割することができますか。

A1 できます。

 

遺産分割は,事件の終局的解決のために,裁判外の協議でも調停や審判といった裁判上の手続でも,遺産の全てを対象とすることが多いと思います。

しかし,不動産については誰が相続するのかについて争うが,預貯金については法定相続分で早期に分割してもらいたいなど,争いのない遺産の分割を先行させたいとして一部分割を行うことが有益な場合があります。

従前は法文上一部分割が許容されるか明確でなかったこの一部分割について,改正相続法では一定の場合には可能という規定が設けられることになりました。

なお,家事事件手続法第73条第2項の一部審判として行われる一部分割(残余財産についての審判事件が係属したままに,一部の財産について審判をするのに熟したとして行われる一部分割)とは異なります。今回の改正法が対象としているのは,残余財産は審判事件に係属しない,全部審判としての一部分割です。

 

 

Q2 一部分割は常にできるのですか。何か要件はあるのでしょうか。

A2 一部分割は他の共同相続人の利益を害するおそれがない場合にできます。そのため,他の共同相続人の利益を害するおそれがないことが要件となります。

 

一部分割は,共同相続人に遺産についての処分権限を認めた制度ですが,無制限にできるわけではありません。

他の共同相続人の利益を害するおそれがないことが必要です。

当事者に対する特別受益の内容,代償金の支払による解決の可能性やその資力の有無などの事情を総合して,一部分割をすることにより,最終的に適正な分割を達成しうるという明確な見通しが立たない場合には,他の共同相続人の利益を害するおそれがあるとして,一部分割が認められないことになります。

 

 

Q3 遺産分割調停(審判)を申立てる際に,全部分割を求めるのか一部分割を求めるのかを明らかにする必要があるのですか。

A3 全部分割か一部分割を求めるかを明らかにする必要があります。

改正相続法により一部分割の制度が定められたため,申立ての趣旨に求める分割が全部分割なのか一部分割なのかを明らかにすることが必要になりました。

裁判所の用意する書式をみますと,申立書に添付する遺産目録には,全ての遺産を記載した上で,申立ての趣旨欄に分割を求める遺産の範囲を特定して記載するようになりました。

 

 

Q4 兄から一部分割調停を申し立てられたのですが,私としては全部の遺産について分割協議をしたいのですが,どうしたらいいですか。

A4 自ら全ての遺産を対象とした遺産分割調停を申し立てるか,残余の遺産を対象とした一部分割の遺産分割調停を申し立てましょう。

 

一部分割を申し立てられた共同相続人にも,遺産についての処分権限があるのですから,申立人以外の共同相続人が,遺産の全部分割又は当初の申立てとは異なる範囲の一部分割を求めることは可能です。

ただその際には,自分自身で新たな申立てをする必要があります。そして具体的には,当初の申立てと併合して(一緒になって)審理されることになります。

なお,一部分割の申立人が審理の途中で他の遺産の分割を求めたいと思った場合には,申立ての趣旨を拡張します。具体的には,申立ての趣旨変更申立書を裁判所に提出することになります。

この記事を書いた人

弁護士 石塚 政人
千葉県柏市出身
2017年 千葉県柏市に石塚総合法律事務所開所

柏市及び千葉県の皆様が、相談して良かったと思える弁護士を目指し、相談者の今後の人生にとって何が最もいい選択か、より良い解決の為にアドバイスさせて頂きます。
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