石塚弁護士ブログ

改正相続法23 遺言執行者の権限の明確化2(民法第1012条~1015条)

今回は、改正相続法23 遺言執行者の権限の明確化2(民法第1012条~1015条)です。

前回は遺言執行者の権限・地位が明確化になったことをお伝えし、その一例として、①遺贈義務者は就職した場合には遅滞なく相続人に遺言書の内容をつたえなければならないこと、及び②特定遺贈における遺贈義務の履行は遺言執行者のみが行えると明文化されたことをあげました。

今回も、遺言執行者の権限・地位が明確化されたことについて説明したいと思います。

 

Q1 主人が妻である私に自宅を「相続させる」との遺言書を書いてくれました。長男が遺言執行者になっているのですが、自宅の登記を主人から私に移転するため、長男だけで登記申請できるでしょうか。

A1 改正相続法によって、特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる」旨の遺言)がされた場合、遺言執行者に対抗要件の具備に必要な行為をする権限が付与されたので、ご長男による単独申請が可能です。

 

旧法下では、判例上、特定財産承継遺言がなされた場合、権利を承継した相続人が単独で登記申請することができるとされていたこと等から、遺言執行者は登記申請をする権利も義務もないと判断されていました。そのため、旧法下では、特定財産承継遺言がなされた場合、遺言執行者は登記申請をすることができませんでした。

また、旧法下では、判例上、相続によって承継した権利は、登記なくして第三者に対抗できるとされていため、急いで相続登記を申請する必要性も高くありませんでした。

設問上の妻は、急いで相続登記をしなくても自分が自宅の所有者であることを第三者(例えば、被相続人名義の自宅の登記を勝手に移す第三者)に主張できるし、相続登記も単独で申請することができるので、遺言執行者を登記申請に関与させる必要性は高くなかったのです。

 

ところが、改正相続法では、特定財産承継遺言がなされた場合も、対抗要件主義が導入され、法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件を備えないと権利の取得を対抗できないこととされました(この改正部分はコチラをご覧ください。)。

そのため、改正相続法では、相続登記をする必要性が高くなったので、特定承継遺言がなされた場合に、遺言執行者が対抗要件の具備に必要な行為をする権限が付与されることになりました。

権限が付与された以上、遺言執行者となった弁護士は、積極的に登記申請をするべきといえますから、実務上は大変重要な改正といえます。

なお、遺言執行者に登記申請をする権限が付与されたことは、特定財産承継遺言によって権利を承継した相続人による登記申請の権限を奪うものではありませんから、改正相続法の下でも、同相続人は単独で登記申請をすることができます。

この点、特定遺贈がなされた場合の遺贈義務の履行は遺言執行者しか行えないということと勘違いしないでください。

 

 

Q2 主人が妻である私に預貯金の全てを「相続させる」との遺言書を書いてくれました。次男が遺言執行者になっているのですが、次男だけで預貯金の払戻や預貯金契約の解約をすることはできますか。

A2 改正相続法によって、特定財産承継遺言がなされた場合に、遺言執行者には預貯金の払戻や預貯金契約の解約権限が付与されたので、遺言執行者であるご次男が預貯金の払戻をすることは可能です

 

旧法下では、特定財産承継遺言がなされた場合、遺言執行者は当然に預貯金の払戻しや預貯金契約の解約が行えるとの明文の規定はありませんでした。

しかし、今回の改正法によって、特定財産承継遺言がなされた場合、原則として、遺言執行者に預貯金の払戻しや預貯金契約の解約の申入れをする権限があることが明文上規定されることになりました。

もっとも、預貯金債権の一部が特定財産承継遺言の目的となっているに過ぎない場合についてまで、遺言執行者に預貯金債権の前部の払戻しを認めると、受益相続人以外の相続人の権利を害するおそれがあります。

そのため、遺言執行者が払戻し等ができるのは、預貯金債権の前部が特定財産承継遺言の目的となっている場合に限定されております。

 

Q3 主人が、長男を遺言執行者とする遺言書を書き、長男が遺言執行者として指定されることになったのですが、長男の仕事が忙しく、なかなか遺言執行者としての事務を行えません。妻(母)である私が代わりに遺言執行者になれないでしょうか。

A3 ご長男から、あなたを遺言執行者として選任する手続きをとれば、あなたが遺言執行者としての事務を行うことができます。

 

これは、遺言執行者の復任権の問題です。

旧法下では、遺言執行者は、原則として、やむを得ない事由がなければ第三者にその任務を行わせることができない、復任できないとされていました。そのため、仕事が忙しいという程度では、遺言執行者は第三者に任務を行わせることはできないでしょう。

しかし、新法下では、遺言執行者は、原則として、第三者にその任務を行わせることができる、復任できるとされました。(なお、遺言者がその遺言で復任を禁じている場合は復任できません。)

このように、原則復任できないから、原則復任できるに変わったということになります。

これは、遺言執行者の任務は行うことが少なくないため、復任を認める必要性が高いのに、旧法下のように(やむを得ない自由がない場合に、)相続人全員の同意を得なければ復任できないという扱いでは不都合であるという要請があったからです。

もちろん、復任を安易にされては困りますので、復任した第三者が行った行為の責任を、遺言執行者は原則として負うことになります。復任の権限を認める一方で、その責任も明確にしているというわけです。

 

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この記事を書いた人

弁護士 石塚 政人
千葉県柏市出身
2017年 千葉県柏市に石塚総合法律事務所開所

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