遺留分侵害額請求について

遺留分侵害額請求について

こんなお悩みありませんか?

  • 父親が姉に遺産全部を相続させるとの遺言を遺しました。私は遺産を全くもらえないのでしょうか。
  • 私がもらえる遺留分はどのくらいなのでしょうか。
  • 遺留分侵害額請求の請求の仕方はどうすればいいのですか。

遺留分侵害額請求で遺留分を取り返せます

  1. 遺留分侵害額請求とは,遺言や生前贈与などで,遺産の殆どを他の共同相続人等に取得されたとしても,遺留分という一定の割合については,遺産を取得できる権利のことです。
  2. 「いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう」というのは,なかなか耳馴染みのない言葉だと思います。
    インターネットで調べるなどして,法定相続分についてはご存知の方も,自己の遺留分割合がどのぐらいなのかについてはご存知ないのではないかと思います。
  3. しかし,遺留分侵害額請求権は,被相続人の財産処分を一定の限度で否定し,自己の遺産取得を実現する非常に有益な権利です。
  4. 相続にご不満な方は,一度弁護士に相談をし,遺留分侵害額請求が可能なのかを調べられることをおすすめいたします。

遺留分とは

  1. 定義
    遺留分とは,被相続人の財産の中で,法律上その取得が一定の相続人に留保されていて,被相続人による自由な処分(贈与・遺贈)に制限が加えられている持分的利益のことをいいます。
    例えば,被相続人Aが遺産を全部子Bに贈与するという遺言を遺しても,子Cは遺留分の限りで遺産の取得を主張できることができるのです。
  2. 趣旨
    何故,遺留分制度があるのでしょうか。
    本来,被相続人は自己の財産を自由に処分することができるはずです。
    にもかかわらず遺留分制度が認められているのは,相続は遺族の生活保障及び遺産形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算という機能も有しているので,被相続人の財産処分の自由と相続人の保護という,相対立する要請の調和を図るためといわれています。

  

遺留分権利者になれる範囲

1 遺留分権利者となれるのは,兄弟姉妹以外の相続人です
遺留分権利者となれる範囲については,民法第1042条第1項で定められています。
同条には,「兄弟姉妹以外の相続人」と定められていますから,遺留分権利者となれる者とは,兄弟姉妹以外の相続人ということになります。
2 具体的なケース
(1)被相続人に配偶者がいる場合,配偶者は常に遺留分権利者となれます。
(2)被相続人に子(代襲相続人を含む)がいる場合,子(代襲相続人を含む)は遺留分権利者となれます。
(3)被相続人に子(代襲相続人を含む)がおらず,父や母といった直系尊属がいる場合,父や母といった直系尊属も遺留分権利者となれます。
(4)ただし,被相続人に子(代襲相続人を含む),及び父や母といった直系尊属がいないため,兄弟姉妹が相続人となったとしても,その兄弟姉妹は遺留分権利者となることはできません。

遺留分を算定するための財産の価額

  1. 遺留分を算定するための財産の価額は,相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額に贈与財産を加え,相続債務の全額を控除して行います(民法第1043条第1項)。
  2. 加算される贈与は限定されています
    (1)まず,相続人以外の第三者への贈与は,原則として相続開始前の1年間にされたものに限り加算されます(民法第1044条第1項前段)。
    もっとも,遺留分権利者に損害を加えることを知った相続人以外の第三者への贈与は相続開始の1年前の日より前にしたものであっても加算されます(民法第1044条第1項後段)。
    (2)次に,相続人への贈与は,①特別受益となる贈与であり,かつ②原則として相続開始前の10年間にされたものに限り加算されます(民法第1044条第2項,第3項)。
    平成30年改正前は,判例によって相続人への贈与は時期を問わず全てが遺留分を算定するための財産の価額に算入されていましたが,平成30年改正によって相続人への贈与について明文で整理されることになりました。
    なお,遺留分を算定するための財産の価額においては,持ち戻し免除の意思表示があっても特別受益は加算されることになります(最決平成24年1月26日)。
    また,共同相続人への特別受益となる生前贈与において,持ち戻し免除の意思表示があっても,加算されることになります(最決平成24年1月26日)。
    (3)さらに,不相当な対価でなされた有償処分も,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行っていた場合には,対価を差し引いた残額が加算されます(民法第1045条第2項)。
    厳密には贈与ではありませんが,不相当な対価でなされた有償処分については,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行っていた場合には,負担付贈与とみなされ,対価を差し引いた残額が贈与として加算されます。
  3. 控除される債務
    控除される債務には,私法上の債務のみならず税金や罰金も含まれます。
  4. 寄与分は考慮されません
    遺留分算定の基礎となる財産総額の算定に当たって,寄与分(特別の寄与)は考慮されません。
    したがって,受贈者は遺贈された財産は被相続人への特別の寄与によって取得したのだから,遺留分を算定するための財産の価額には含まれないと主張することは許されません。

 

遺留分が認められている割合

1 総体的遺留分の割合

遺留分が認められている割合(総体的遺留分の割合)は,以下のようになります。

①直系尊属(例 父,母)のみが相続人である場合=被相続人の財産の1/3
②①以外の場合=被相続人の財産の1/2

2 個別的遺留分の割合

(1)遺留分権利者が複数存在するときには,各遺留分権利者の遺留分の割合(個別的遺留分の割合)は,上記総体的遺留分の割合に法定相続分の割合を乗じたものとなります。

(2)したがって,個別的遺留分の割合は以下のようになります。

①配偶者のみが相続人の場合 → 配偶者1/2
②子(代襲相続人を含む)1人が相続人の場合 → 子1/2
③直系尊属(例えば,父,母)1人が相続人の場合 →父(母) →1/3
④配偶者と子(代襲相続人を含む)1人が相続人の場合 → 配偶者1/4,子1/4
⑤配偶者と直系尊属(例えば,父,母)1人が相続人の場合 → 配偶者1/3,父(母)1/6
⑥配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合 → 配偶者1/2

3 具定例

例えば,被相続人Aに,相続人として妻Bと長男Cと長女Dがいる場合の個別的遺留分は,以下のとおりとなります。

Bの個別的遺留分=1/2×1/2=1/4
C又はDの個別的遺留分=1/2×1/2×1/2=1/8

遺留分侵害額の算定方法

1 遺留分侵害額の算定は,
①遺留分を算定するための財産の価額の算定
②遺留分額の算定
③遺留分侵害額の算定
の3つの手順を踏んで行います。

2 ①遺留分を算定するための財産の価額の算定

遺留分を算定するための財産の価額の算定は,相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額に贈与財産を加え,相続債務の全額を控除して行います(民法第1043条第1項)。

3 ②遺留分額の算定

遺留分額は,遺留分算定の基礎となる財産額に個別的遺留分の割合を乗じて計算します。
個別的遺留分の割合は上記のとおりです。

4 ③遺留分侵害額の算定

遺留分侵害額の算定は,以下の計算式によって行います(民法第1046条第2項)。

遺留分侵害額=(遺留分額)-(遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額)-(遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額)+(遺留分権利者が負担する債務の額(遺留分権利者承継債務))

5 具体例

被相続人Aに,相続人として妻Bと子Cがいます。
相続財産は,銀行預金6000万円がありました。
また,Aには,過去に取引によって負った債務が,2000万円ありました。
当該債務は遺産分割協議によりBとCがそれぞれ1000万円負担することにしました。
Aは,Cに対して,亡くなる直前に評価額1億6000万円の不動産を贈与していました。
上記の銀行預金は,Aの遺言により,BとCにそれぞれ3000万円ずつ分配されました。
この場合において,Bが遺留分侵害額請求をした場合の,遺留分侵害額は次のようになります。

(1)遺留分を算定するための財産の価額の算定
6000万円+1億6000万円-2000万円=2億円

(2)Bの遺留分額の算定
2億円×1/2×1/2=5000万円

(3)Bの遺留分侵害額の算定
遺留分侵害額の算定にあたっては,Bの遺留分額からBが相続により得た財産を控除し,Bが負う相続債務は加算されることになります。
5000万円-3000万円+1000万円=3000万円

(4)結論
以上より,具体例においては,Bが遺留分侵害額請求をした場合の,遺留分侵害額は3000万円となります。

遺留分侵害額請求をするには

  1. 理論上は口頭の意思表示で足ります
    遺留分侵害額請求権の行使は意思表示でたりますので,理論上は,口頭で,受遺者・受贈者及び包括承継人に対して「遺留分侵害額の請求をします。」といえば足ります。
  2. 実際には,内容証明郵便を送付することが大切です
    もっとも,遺留分侵害額請求権の行使には期限が決まっていますので,口頭のままですと,期限を過ぎた際に,遺留分侵害額請求を行使するなんて言っていないから,あなたの遺留分侵害額請求は無効だと争われてしまう可能性があります。
    したがって,遺留分侵害額請求をいつ行ったかを明確にするために,受遺者・受贈者及び包括承継人に対して内容証明郵便を送付することが大切になります。

遺留分侵害額請求の順序

  1. 遺留分侵害額請求の対象となる財産が複数存在する場合には,遺留分侵害額請求は,以下の順序で行います。
    遺留分権利者が減殺すべき物件を選択することはできません。
    そして,受贈者の無資力のリスクは遺留分権利者が負い,受贈者が無資力だからといって,他の贈与に対して侵害額請求することはできません(民法第1047条第4項)。
  2. 遺贈と贈与
    (1)第1順序
    減殺されるべき遺贈及び贈与が複数存在するときは,まず遺贈から減殺します(民法第1047条第1項第1号)。
    (2)第2順序
    遺贈が複数あるときは,遺言者の別段の意思が表明されていない場合には,遺贈の価額の割合に応じて減殺します(民法第1047条第1項第2号)。
    (3)第3順序
    遺贈が減殺され,それでも遺留分が保全されないときに贈与が減殺されます。
    (4)第4順序
    贈与が複数のときは,相続開始時に近い贈与から始め,順次前の贈与にさかのぼります(民法第1047条第1項第3号)。
    贈与が同時にされたときは,遺言者の別段の意思が表明されていない場合には,贈与の目的の価額の割合に応じて減殺します(民法第1047条第1項第2号)。
  3. 死因贈与
    死因贈与は,遺贈についで,生前贈与より先に遺留分侵害額請求の対象となります(東京高判平成12年3月8日)。
    したがって,遺留分侵害額請求の順序は,遺贈→死因贈与→贈与の順となります。
  4. 「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)
    「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言は遺贈と同視できます。
    そのため,平成30年改正以前も,特定財産承継遺言(や相続分の指定がされた場合)にも,これによって利益を受ける相続人が遺留分侵害額請求の相手方となっていましたが,同改正により,特定財産承継遺言(や相続分の指定がされた場合)にも,これによって利益を受ける相続人が遺留分侵害額請求の相手方となることが明記されました(民法第1046条第1項)。
    遺留分侵害額の順序は,遺贈・「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言→死因贈与→生前贈与の順となります。

遺留分侵害額請求の期限

  1. 時効は1年
    遺留分侵害額請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知った時から1年で,時効により消滅します(民法第1048条前段)。
  2. 除斥期間は10年
    また,相続開始から10年を経過したときも消滅します(民法第1048条後段)。
    この10年の期間は除斥期間とされ,時効中断が認められません。
  3. 遺留分侵害額請求権には期限がありますので注意しましょう
    したがって,遺留分侵害額請求ができる期限は,①遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知った場合には,知った時から1年となり,①遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知らなかった場合には,相続開始から10年となる,といえます。

遺留分侵害額請求の流れ

1 遺留分侵害額請求の通知書(内容証明郵便)の送付
遺留分侵害額請求については口頭でも足りますが,証拠化のために,内容証明郵便を送付します。
2 遺留分侵害額調停の申立て
(1)遺留分侵害額請求の意思表示によって,遺留分侵害額に相当する金銭の給付を目的とする金銭債権が生じます(民法第1047条第5項)。
(2)裁判外の交渉で受遺者等が金銭の支払いに応じてくれれば問題ありませんが,金銭の支払いに応じてくれない場合には,家庭裁判所に遺留分侵害額調停を申立てることになります。

遺留分侵害額請求は弁護士が訴訟までトータルサポート

遺留分侵害額請求権は,被相続人の財産処分を一定の限度で否定し,自己の遺産取得を実現する非常に有益な権利ですが,その行使には1年という短い期限が設けられています。
一方で,遺留分の割合の算定の仕方や遺留分侵害額の算定の仕方が困難であったり,その行使すべき順序が定まっていたりして,なかなか個人で遺留分侵害額請求権を行使するのが難しい一面があります。
よくわからないからとそのままにして,遺留分侵害額請求権が時効になる前に,一度,石塚総合法律事務所にご相談下さい。

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