相続放棄の手続き
こんなお悩みありませんか?
- 相続財産の家を相続しながら,借金の相続を放棄することができますか。
- 相続財産の預貯金を使った後で,預貯金額を上回る債務があることがわかったのですが,相続放棄できますか。
- 被相続人が死亡してから2ヶ月後に支払い督促がきて,相続放棄をするべきか迷っています。相続放棄をするまでの期限を延ばすことができますか。
受け取りたくない財産は相続放棄ができます
相続を承認するということは,積極財産(プラスの財産)のみならず,消極財産(マイナスの財産,例えば借金など)も相続しなければなりません。
消極財産が積極財産を上回るために相続を承認したくない場合には,相続放棄をすることができます。
もっとも,相続放棄には期限がありますので,相続を承認するべきか,相続放棄をするべきかお悩みの方は,お早目に弁護士にご相談下さい。
目次
相続放棄についての基礎知識
弁護士が解説する相続放棄
相続放棄とは
- 定義
相続放棄とは,自己の相続人たる資格を放棄することをいいます。 - 効果
相続放棄をすると,その者は初めから相続人ではなかったことになります。
なお,相続放棄者は,放棄後も,次順位者が相続財産の管理をすることができるまで,相続財産の管理を継続しなければなりません。 - 消極財産のみの放棄は許されません
相続放棄は,相続人たる資格を放棄することなので,積極財産(プラスの財産)を相続しながら,消極財産(マイナスの財産,例えば借金など)のみを放棄するということはできません。 - 単独で相続放棄することができます
各相続人は,単独で相続放棄をすることができます。
相続放棄の仕方
- 相続財産の調査をします
一旦相続放棄をしますと,熟慮期間内であっても,撤回をすることはできません。
そのため,本当に相続放棄をするべきなのか,相続放棄前に,被相続人の積極財産と消極財産とを調査することが必要です。 - 家庭裁判所に申述する
相続放棄は,家庭裁判所に申述書を提出することが必要です。 - 場合によっては期間伸長の申立てをする
相続放棄は,自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内(熟慮期間)にしなければなりません。
相続財産の調査などに手間取り,熟慮期間内に相続放棄を申述することが難しい場合には,期間伸長の申立てをして,熟慮期間を延ばすことが大切です。
相続放棄をする際の注意点
相続放棄の期限に注意
- 1 熟慮期間は3ヵ月
- (1) 相続放棄は,自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内(熟慮期間)にしなければなりません。
- (2) 熟慮期間の起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った日」をいいますが,この意味は,一般的には,被相続人の死亡と自己が相続人であることを知ったときをいいます。
- 2 熟慮期間の起算点の緩和
- (1) 被相続人と音信不通である場合やその他交流が活発でないような場合には,相続人が被相続人の債務関係がわからないことが少なくありません。
そのため,熟慮期間を経過してしまったところ,貸主から支払い督促を受けて初めて借金の存在を知り,相続放棄の必要を感じるという事態が生じます。 - (2) そのため,熟慮期間の起算点については,以下のように,判例によって緩和されております。
まず,相続開始の原因たる事実を知っただけでは足りず,それによって自己が相続人になったことを覚知したときが起算点となります。
つぎに,相続財産が全くないと信じ,かつ,信ずるにつき相当な理由がある場合は,(その後の債権者からの請求などにより)相続財産の全部又は一部の存在を認識し得べきときが起算点となります。
この「全くない」には,めぼしい財産が殆どない場合も含まれます。 - 3 熟慮期間内での相続放棄が間に合わないとき
- 貸主から支払い督促が熟慮期間経過直前になされた場合,相続放棄に間に合わない事態が生じます。
そのときには,後述する期間伸長の申立て制度によって,熟慮期間を先に延ばすことができます。
法定単純承認に注意
- 法定単純承認をすると相続放棄ができなくなる
相続人は,熟慮期間中であっても,以下のような相続の承認行為を行うと,相続放棄が出来なくなりますので,注意して下さい。 - 相続財産の処分(民法第921条1号)
相続人が,相続財産の全部又は一部の処分(保存行為等を除く)をした場合,単純承認をしたものとみなされます。
例えば,相続債権を取り立てて収受領得することや,遺産分割協議をする場合,相続財産を壊す場合がこれにあたります。
なお,相続財産を用いて,仏壇や墓石と購入すること,葬儀費用を捻出したことは,衡平ないし信義則上やむをえないとして「処分」にあたらないとされています。 - 相続財産の隠匿又は消費(民法第921条3号)
相続財産の全部又は一部を隠匿したり,ひそかに消費した場合なども,単純承認をしたものとみなされます。
相続放棄をする前に財産調査をすることが大切
- 相続放棄は,消極財産が積極財産を上回るときに行えばよい,といえるでしょう。
- しかし,理屈はそうだとしても,相続人が被相続人がどんな積極・消極財産を,どれだけ有しているのかを把握していることは少ないと思います。
- そのため,被相続人の相続財産には不動産があるだけと思い相続を承認した後に,貸主から支払い督促が来て,実は借金の方が不動産の評価額より多かったということがわかったり,相続財産には預貯金があるだけで借金の方が多いからと相続放棄したところ,後で把握していなかった不動産が発見されたりして,取り返しがつかない事態になるおそれがあります。
相続の承認や放棄は,いったんすると,熟慮期間内でも,撤回することができません。 - したがって,相続放棄(又は承認)をする前には,被相続人の財産調査をすることがとても大切です。
相続放棄した場合の他の親族への影響
- 1 次順位の相続人に影響が及ぶことを理解しましょう
- (1) 相続の放棄をすると,その者ははじめから相続人ではなかったことになるため,次順位の者が相続人となります。
例えば,被相続人の子が相続放棄をすると,直系尊属(父や母など)が次順位の相続人となりますし,直系尊属がいなければ兄弟姉妹が相続人となります。 - (2) そのため,相続放棄により,結果として,次順位の者が相続放棄をするか否かを判断しなくてはならなくなります。
- (3) したがって,相続放棄をする際には,事前に,次順位の相続人となる親族に対し,相続放棄により相続人となることを伝えておくとよいと思います。
- 2 次順位の相続人の熟慮期間
- 次順位の相続人の相続放棄ですが,相続放棄者の熟慮期間中に相続放棄をする必要はありません。
次順位の相続人がいる場合は,相続放棄者が相続放棄をした時が,後順位者のために「相続の開始があった」時となりますから,相続放棄者が相続放棄をしたことを知ってから3ヵ月が熟慮期間となります。
未成年の相続放棄
- 1 親権者等の法定代理人が代理します
- 相続人が未成年者の場合,未成年者の相続放棄は,親権者等の法定代理人が代理して申述することになります。
- 2 利益相反に反するおそれがあります
- (1) しかし,親権者も相続人の一人である場合,親権者を代理にして未成年者の相続放棄を申述することは利益相反にあたり,許されません。
- (2) 未成年者と親権者とは,未成年者が相続放棄をすることで親権者の相続分が増加するという関係(利益相反関係)にあるので,親権者が未成年者を代理にして相続放棄をすることはできないとされているのです。
- (3) したがって,親権者も相続人の一人である場合に,未成年者のみ相続放棄を申述するにあたっては,特別代理人選任の申立をして,その特別代理人に相続放棄申述の代理をしてもらう必要があります。
- 3 利益相反に反しない場合
- (1) もっとも,親権者が,自ら及びその余の子全員の相続放棄を,既にしている又は同時にするのではれば,利益相反にあたりません。
自らも相続放棄をする以上,未成年者の相続放棄によって自己の相続分が増加するという関係(利益相反関係)は生じないからです。 - (2) なお,親権者が二人の未成年者のうちの一人と一緒に相続放棄する場合は,やはり未成年者を代理することはできません。
何故ならば,かかる場合,親権者との関係で利益相反が生じないとしても,一人の未成年者の相続放棄が他方の未成年者の相続分を増加させるというように,未成年者同士の利益相反に反してしまうからです。
生前の相続放棄
- 被相続人に借金があるのは明らかだからとか,相続争いに巻き込まれたくないから等の理由で,被相続人の生前から相続放棄をしたいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
- また,被相続人が,特定の相続人に相続させたくないとの理由で,特定の相続人に相続放棄をするよう求めたいと思われる場合もあるかもしれません。
- しかし,法律上,生前に相続放棄をすることも,させることもできません。
- そのため,被相続人が,特定の相続人への相続を希望しない場合には,遺言書を書く,さらには遺留分の放棄をしてもらうといった手続が必要となりますのでご注意下さい。
期間の伸張
- 相続の承認又は放棄の期間(熟慮期間)は,利害関係人(又は検察官)の請求によって,家庭裁判所において伸張することができます(民法第915条第1項但書)。
- 期間の伸張の必要性を要します
期間伸長には,期間伸長の必要性を要します。
具体的には,相続財産が多数あり構成が複雑である場合や,債務の存否の調査に時間を要するといった必要性を主張することになります。 - 熟慮期間を経過するおそれがある場合には,期間伸長の申立もしましょう
相続放棄は,自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内にしなければなりません。
そのため,悩んだ末に相続放棄をしようとすると,相続放棄の申立前に熟慮期間が経過してしまうおそれがあります。
したがって,熟慮期間が経過するおそれがある場合には,相続放棄の申述申立てと同時に期間伸長の申立てをする必要があります。
相続放棄しても生命保険は受け取れる
- 保険契約者が自己を被保険者(被相続人)とし,相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合,保険金受取人は死亡した被相続人の財産として死亡保険金を受け取るのではありません。
- 保険金受取人の固有の権利として死亡保険金を受け取ることになります。
- そのため,かかる場合,保険金受取人は,相続放棄をしても死亡保険金を受け取ることができます。
限定承認とは
- 1 定義
- 限定承認とは,相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をするものをいいます(民法第922条)。
簡単に言うと,相続を受けた人が,プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐという方法のことです。 - 2 方法
- (1) 相続人が限定承認をしようとするときは,自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内(熟慮期間)に,相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し,限定承認をする旨を申述をします。
- (2) 限定承認は,相続人が数人ある場合には,共同相続人の全員が共同してのみ行う必要があります。
なお,相続人が数人ある場合,限定承認が認められると,家庭裁判所は,相続人の中から,相続財産の管理人を選任することになります。 - 3 利用しにくい限定承認
- 限定承認は,相続放棄とは異なり相続人たる資格を喪失するわけではなく,また相続人の持ち出しがないため,有意義な一面はあります。
しかし,限定承認をすると,みなし譲渡課税(被相続人の保有期間中に生じた値上がり益に対する課税)がされることや,相続財産目録の作成等の手続が煩雑であることから利用しにくい制度となっています。
そのため,限定承認がなされるのは年間1000件程度に過ぎないといわれております。
相続放棄の手続きは弁護士にご依頼下さい
相続放棄をするには,財産調査をする必要がありますし,また所定の戸籍謄本を取り寄せる必要があります。しかし,その作業はそれなりの時間と労力を要します。
例えば,相続放棄をする申述者が被相続人の直系尊属である場合,取り寄せるべき戸籍謄本は,
①申述者自身の戸籍謄本の他に,
②被相続人の出世時から死亡時までの戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本,
③被相続人の子(及びその代襲者)で死亡した者がいれば,その者の出生時から死亡時までの戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本,
④被相続人の直系尊属で死亡した者(申述者よりも下の代の直系尊属に限る)がいれば,その者の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本が必要となります。
私の相談者の中には,自分で相続放棄をしようとしたが,作業が上手くいかず,熟慮期間を徒過して相続放棄ができなくなったという方も少なくありません。
相続放棄が認められるか否かは,消極財産を相続してしまうか否かという重大な結果に関わるのですから,多少の費用がかかっても弁護士に依頼をして,間違いなく相続放棄を実現することが望ましいでしょう。
相続放棄に関してお悩みの方は,是非,当事務所にご相談下さい。