今回は、改正相続法20 持ち戻し免除の意思表示の推定2(第903条第4項)です。
前回、①婚姻期間20年以上の夫婦の一方が他の一方に対して②居住用不動産を贈与する場合には、持ち戻し免除の意思が推定されることになった、この影響は大きというはなしをしました。
今回は、その要件についてのはなしです。
Q1 私と夫の婚姻期間は20年以上ですが、私は夫から賃貸マンションを贈与されたことがありますが、この場合も持ち戻し免除の意思表示は推定されますか。
A1 されません。
持ち戻し免除の意思表示が推定されるのは、婚姻期間の長い夫婦間でなされた居住用不動産の贈与等であれば、相手方配偶者の老後の生活保障のために行われることが多いだろうということが、前提となっています。
そのため、被相続人による賃貸マンションの贈与も、真実は相手方配偶者の生活保障のために行われたのかもしれませんが、意思表示を推定することはできません。
賃貸マンションの贈与をなした場合には、依然として持ち戻し免除の意思表示をしないと、特別受益と評価されてしまうことになります。
Q2 私と夫の婚姻期間は20年以上ですが、私は夫から店舗兼住宅を贈与されたことがありますが、この場合は持ち戻し免除の意思表示が推定されますか。
A2 構造や形態によって判断されます。店舗と居住用部分とが構造上一体となっていれば店舗部分も含めて戻し免除の意思表示は推定されるでしょうし、構造上分離されていれば、つまり居住用部分が離れのようになっていれば推定できないことになるでしょう。
店舗兼住宅について、1階は店舗、2階は住居となっているような店舗兼住宅を贈与した場合、2階部分のみ他方配偶者の生活保障のための贈与で、1階部分はそうではないというのは考えづらいところです。
あくまでも構造や形態によって判断されることになりますが、一般論としては構造上一体となっているような店舗兼住宅であれば全体について持ち戻し免除の意思表示は推定されることが多いでしょうし、完全に分離していて居住用不動産が離れのようになっているのであれば、店舗部分は意思表示の推定が及ばないということもあり得ます。
Q3 夫は流山市と柏市にそれぞれ住居を持っていました。夫は婚姻後19年目に柏市の住居を贈与してくれましたが、その頃は私たちは流山市の住居に住んでおり、柏市の住居には住んでいませんでした。夫は私に柏市の住居を贈与した後、流山市の自宅を売却したので、私たちは以後柏市の住居に住んでいます。贈与されたときは柏市の住居に住んでいなかったのですから、居住用不動産の贈与とはいえずに、持ち戻し免除の意思表示は推定されないのでしょうか。
A3 居住していたか否かは、贈与の時点で判断します。そのため、贈与されたときに柏市の住居に住んでいなかったのであれば、居住用不動産にはあたらないといえますが、しかし、贈与の時点で近い将来居住のように今日する目的があったと認められる場合には、居住用不動産の贈与として持ち戻し免除の意思表示が推定されることはありえます。
持ち戻し免除の意思表示の推定は、贈与又は遺贈がなされた時点の被相続人の意思を推定するものです。そのため、推定を受けるには、贈与又は遺贈がなされた時点で、その不動産が居住用不動産といえなくてはなりません。
もっとも、贈与又は遺贈がなされた時点において、近い将来に居住する予定だったといえる場合には、居住用不動産といえるとの評価も可能とされています。