今回は、改正相続法22 遺言執行者の権限の明確化(民法第1012条~1015条)です。
多くの方には耳馴染みのない「遺言執行者」の話です。遺言執行者とは、遺言書に記載されている内容、事務を行う者のことをいいます。
例えば、ある不動産を遺贈するという遺言書があり、その遺言書に遺言執行者が定められている場合には、遺言執行者となった者は、当該不動産を遺贈するための事務を行うことになります。
遺言執行者を定めるには、遺言書に遺言執行者を〇〇とすると定める必要があります。長男を遺言執行者に定める自筆証書遺言は少なくありません。
もっとも、この遺言執行者の行う事務は簡単ではありません。法律の知識も必要になりますし、相続人との交渉、調整能力が問われたりします。
そのため、弁護士が遺言執行者として指定されることも少なくありません。完全に余談ですが、犬神家の一族に見られるように、旧家の顧問弁護士が遺言書を読み上げるシーンが映画やドラマで見られますが、おそらくあの弁護士は遺言執行者として指定されているんだろうなと私は推察し、あこがれたりしています(スケキヨ)。
もっとも、最近ですと、銀行等の金融機関が積極的に遺言執行者になりますよと働きかけていますから、最近では銀行等の金融機関が遺言執行者として指定されることも多くなっていると思います。
このように、遺言書に書かれている内容を円滑に実現するために重要な権限・地位を有する遺言執行者ですが、旧法においてはその規定の仕方が一般的・抽象的であったため、その権限・地位について分かりにくいところがありました。
そこで、今回の改正では、遺言執行者の権限・地位が明確になりました。
Q1 私はお父さんの前妻の子供にあたるものです。お父さんは生前遺言書を書いてくれたようなのですが、遺言書は後妻やその子供達が持っているようなのです。私は遺言書の内容を知ることができるのでしょうか。
A1 自筆証書遺言がなされて検認手続がなされれば、その際に内容を知ることができますし、仮に遺言執行者がいる場合、遺言執行者には遺言書の内容を知らせる義務がありますので、遺言執行者を通じて遺言書の内容を知ることもできます。
旧法のもとでは、遺言執行者は財産目録を作成してこれを相続人に交付する義務はありましたが、遺言執行者が就職したことや遺言書の内容を相続人に通知する義務については規定がありませんでした。
しかし、遺言執行者がいることがわかれば、相続人は遺言書の内容を遺言執行者に問い合わせをすることができます。そのため、遺言執行者が就職したことの事実は、それ自体相続人にとっては重要な情報といえます。したがって、改正相続法では遺言執行者が就職したことを遅滞なく相続人に通知しなければならないと定めました。
Q2 お父さんは自宅を妻である私に贈与するとの遺言書を書いてくれました。石塚何某という弁護士が遺言執行者ですと名乗って、自宅の登記申請に協力するっていうんですが、信用していいのでしょうか。
A2 遺言執行者がある場合は、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができると明文化されましたから、その先生は信用していいと思いますよ。
旧法のもとでは、設問のような場合に、遺贈義務者は他の相続人になるのか、遺言執行者がなるのかについて、定めておりませんでした。
この点判例が、特定遺贈がなされた場合において、遺言執行者があるときは、遺言執行者のみが遺贈義務者となると判示していたため、実際には遺言執行者が遺贈義務者となっていました。
改正相続法では、この判例を明文化しました。「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」(第1012条第2項)と規定されたのです。