今回は、改正相続法18 自筆証書遺言の方式緩和(民法第969条第2項)です。
自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)とは、遺言者が自筆で作成する遺言書のことをいいます。
多くの方がイメージする遺言書といえば、この自筆証書遺言になるかもしれません。
しかしながら、その使い勝手がいいとはいいきれないところがあります。私も遺言書の作成を相談された際には自筆証書遺言によらないで公正証書遺言、すなわち公証人が作成する遺言書にした方がいいですよとアドバイスすることにしています。
なぜかといいますと、自筆証書遺言に限らず、遺言書には厳格な要件、方式が定められており、その要件、方式が欠けると遺言書は無効になってしまい、せっかく書いた遺言書が意味をなさなくなってしまう危険があるからです。
自筆証書遺言の要件、方式とは、遺言書の「全文」、日付及び氏名を自書(自ら書くこと)し、これに印を押さなければならないというものです。
ですから、日付が抜け落ちたり、不明確だったり、遺言書の一部を他人が手伝っていたりすると、それだけで遺言書の効力は無効になってしまいます。
そういったリスクを負うくらいなら、公証人に作成してもらった方が間違いなので安心でしょうから、公正証書遺言にした方がいいですよ、というのが当職の考えということになります。
これが今回の前提知識ということになりますが、その自筆証書遺言の要件、方式が少し変わりました。厳格な要件、方式故に遺言者の負担となっていた自筆証書遺言の要件、方式を緩和することで、自筆証書遺言の利用を促進しようというのが制度趣旨ということになります。
さて、どこが変わったのでしょうか。
Q1 私には遺産が複数あります。そのため、自筆証書遺言をする際に財産目録をつけたいのですが、この財産目録も私が自ら作成しなければなりませんか。
A1 旧法のもとでは自ら作成しなければなりませんでしたが、新法下では財産目録を自ら作成する必要はありません。たとえば、財産目録をパソコン入力して印刷したものとしても自筆証書遺言としては有効となります。
今回の自筆証書遺言の要件、方式緩和は、この「財産目録の自筆性が不要になった」ことにあります。
少なくない遺産を有する人が遺言書を残すとき、遺産の全てを本文に記載して、それを各相続人に相続させると記載するのはそれなりに面倒です。例えば、「○○銀行××支店の普通預金口座、口座番号△△の預金はAに相続させる」といった記載を各遺産毎に自筆しなければなりません。
財産目録を使うと「別紙財産目録1,2、及び3の財産はBに相続させる」と書けばいいことになり、その財産目録を自筆でなくパソコン入力で作成してもいいことになれば、その負担はやはり相応に減ると言えます。財産目録であれば他人に作成してもらってもいいわけです。
Q2 財産目録を自筆しなくていいことはわかりましたが、財産目録を作成するのに注意することがありますか。
A2 財産目録の形式は要求されていません。登記事項証明書そのものを財産目録に使用しても、通帳の写しを財産目録として使用しても構いません。しかしながら、各財産目録の各頁に署名押印する必要がありますので、そこは注意する必要があります。
要件、方式緩和のため、財産目録の自筆性は不要になったのですが、その代わりに「各頁に署名押印」することは必要とされています。なお、財産目録に使用する印と本文に使用する印とが異なっても構わないとされています。もっとも、誰が押印したのかと要らぬ疑いが生じないように本文の印と同じ印を使用するのが無難ではないかと、個人的には思います。
Q3 財産目録の形式を問わないのであれば用紙の両面に目録を書いてもいいということでしょうか。その際の署名押印は両面にしなければなりませんか。
A3 用紙の両面を使ってもいいですが、署名と押印は両面にする必要があります。
用紙の片面を使用して作成された財産目録について、財産が記載された面に署名押印しても裏面(白紙部分)に署名押印しても構わないとされています。しかしながら、両面を使用した場合には両面に署名押印しなければなりません。
Q4 財産目録の各頁に押印しているのですから、本文にはもう押印しなくてもいいですよね。
A4 財産目録の各頁にどれだけ押印しても、本文に押印しなければいけません。
本文の一部に自書によらない財産目録を記載することは認められていませんので、財産目録に記載された署名押印を本文の署名押印に代えることはできないことになります。
そのため、本文には必ず署名押印をする必要があるということになります。
Q5 財産目録を用いる際、本文と一緒に綴じる必要がありますか。
A5 本文と一緒に綴じる必要はありません。
財産目録を本文に添付する方法について特別の定めはありません。ホッチキスで綴じたり、本文との間に契印をする必要もありません。もっとも、一緒の封筒に入れる等、本文に添付された財産目録だとわかる状態にしておくことがよいでしょう。
以上が、自筆証書遺言の要件、方式の緩和についての話なのですが、財産目録を自筆でなく作成しても良いということになっても、一方でただその財産目録の各頁には自筆で署名押印をしなければならないという要件が定められたわけですから、ここの部分をしっかり理解しておかないと、結局自筆証書遺言の要件、方式を欠いたとして無効になってしまいかねないことになってしまいます。
便利になったと思う一方で、新たな問題を生まないかな?と心配になるというのが私の印象です。そのため、今のところ公正証書遺言を勧めることを代えることはなさそうです。