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求む,矜持に頼らない制度設計

私も国選弁護人となって刑事事件に関わることがあります。国選弁護人とは資力のない人等のために国が選任した弁護人のことをいいます。これに対して,被疑者又は被告人が選任した弁護人を私選弁護人といいます。

これも弁護士あるあるだと思いますが,本人又は関係者からよく「国選弁護人よりも私選弁護人を頼んだほうがいいですか」と尋ねられることがあります。国選弁護人は弁護士報酬が低いため,しっかり弁護をしてくれないのではないかという不安があるのでしょう。

この質問を受けたとき,私は,「国選だろうと私選だろうとするべきことに変わりはありません。私は国選だからといって手を抜くことはしませんが,弁護士もいろいろなので,弁護士によっては熱心でない人もいるかもしれませんね。」と答えることが多いです。自分は違うと言いながら,他の同業者を疑問形とはいえおとすので,やや卑怯な感じがするのですが,いろいろ噂を聞きますと,正直な感想なので仕方ないというか,許していただきたいなと思います。同業者の皆さんはなんて答えるんでしょう,今度聞いてみたい気がします。

さて,国選弁護人は,前述のように基本的に資力のない人を対象にするのですが,中には,資力の全くないホームレスを対象にした事件を扱うことがあります。よくあるのが,生活が苦しくて万引きをして捕まったというものです。

万引きはお店にとっては本当に許しがたい犯罪ですが,前科がなかったり万引きした物の価値が僅少であった場合,不起訴なり執行猶予なりで,早期に釈放されることが多いといえます。ただ,何もケアせずに社会に復帰させると,また生活苦を理由に万引きしてしまう危険があるので,ホームレスによる万引き事案では,こういった被疑者(被告人)の今後をどうケアしたらいいのかが問題となります。

一般論からすれば,生活保護を受給してもらい,生活を立て直してもらうことになります。ただ,生活保護は,申請してから受給までに2週間以上かかりますので,受給までの生活保障をどう確保するかが問題となります。一般論といったのは,中には,あくまでも自由な生活を望む人がいるので,そうそう杓子定規に生活保護を受ければいいとはならないからです。検察官も市の職員もそのことがわからないので,時として弁護人は,本人の意向と検察官等の意向とで板ばさみになるのですが,その問題は今回は触れないでおきます。

受給までの生活保障を確保するには,いくつか方法があります。具体的には,更生緊急保護の制度を利用する,市町村の生活困窮者支援事業を利用する,NPO法人のシェルター(施設)を利用する等があります。細かな違いはありますが,これらの制度,団体は,いずれも(要件を満たせば),金銭の給与又は貸与,宿泊場所の供与をしてくれますので,受給までの生活保障を確保できます。

柏市であれば,あいねっとが生活困窮者支援事業を行っています。千葉でシェルターを用意してくれるNPO法人には,エスエスエス,グループハウス金木犀,市川がんばの会などがあります。

ここまで読んでいただいて,皆さんは,しっかりとケアする制度,施設があるのなら,問題ないねと思われるのではないでしょうか。

しかし,いずれの制度も,実際にホームレスの被疑者(被告人)を各施設に入所させる手続を誰がするのか,その費用を誰が負担するのかという視点が抜けています。

松戸警察署に留置されていたホームレスの被疑者が,勾留満期で釈放されるケースを考えてみましょう。

更生緊急保護を利用することを選んだとします。この場合,まず被疑者(本人)を松戸警察署から千葉市にある保護観察所に連れていく必要があります。そこで受付を済ませ,次に,委託先の施設まで再び本人を連れて行く必要があります。がんばの会も保護観察所からの委託を受けて運営していますので,同会に連れて行く場合は,松戸警察署から千葉市の保護観察所,同所から市川のがんばの会に行く必要があります。さらにいえば,同会を利用するには,事前にがんばの会の職員の方による面接が必要なので,がんばの会の職員の方と日程調整の上,一緒に接見に行く必要もあります。

グループハウス金木犀を利用することを選んだとします。この場合も,事前に金木犀に施設に空きがあるかを確認しておく必要があります。そして,釈放されると,本人を空きのある施設に連れて行きます。そこで,受付をすれば,入所は完了となりますが,金木犀の利用は,生活保護の受給申請は同行者がすることが前提なので,入所手続とは別に,同行者は,本人を市役所に連れて行き,生活保護の受給申請に協力する必要があります。

このように,いずれの方法によったとしても,実際にホームレスの被疑者(被告人)を各施設に入所させる等の手続をする人間が必要なのですが,各制度はこの担い手について,何ら規定しておりません。その費用負担についても同様です。

実際には,弁護人がこれを行っています。先のがんばの会を利用する場合,釈放日は半日から1日つぶれることになります。そして移動にかかる交通費は全て弁護人が負担することになります。更にいえば,がんばの会の職員の方の接見にあたって,日当と交通費も弁護人が支払うことになります。この費用は,後日弁護士会に請求すれば戻ってきますが,それも,元を辿れば自分が支払った弁護士会費から支払われているわけですから,結局自分が負担をしているようなものです。

ラーメン屋さんはラーメンを売って生活をしているわけですが,あるとき,見ず知らずの人のために店を閉めて欲しい,そしてその人が各所に行くのに同行して欲しい,交通費がかかるけれど,それは自腹で払ってほしいと言われて,そのラーメン屋さんはわかったというでしょうか。(ラーメン屋さんを出したのは,弁護士と同じく主に労務所得で生活をしているからであり,特段意味はありません。)

ところが,弁護士は(表面的には)文句を言わず,自腹を切りながらホームレスの被疑者(被告人)のために,手続を行うのです。その理由は,他にする人がいないから仕方ないと思っているのか,はたまた弁護士としての矜持なのか・・・・。

ただ,やはり矜持に頼った制度設計は間違っていると思います。私は,本来はこれらの手続は行政の仕事であり,個人たる弁護士に手続を行わせるのはおかしいと思いますが,仮に弁護士に手続を行わせるのであれば,それに見合う対価を国選の報酬として定めるべきです。

不十分な対価しか払われていないことが,私選の弁護人の方が良いのではという先の質問に繋がるのであれば,国選弁護制度を利用する国民にとっても不幸なのではないかと思う次第です。

おかげさまで1周年(追補)

1周年ということで,友人からいただきました。

相談者を装って来所して来たので,びっくりしました。

(来所方法もさることながら,1991年蒸留のお酒を用意するとか,事務所内でカップ焼きそばを食べようとするとか,色々小技を利かせてくるところが,らしいなと思いましたよ。)

友人にも感謝感謝の1年でした。ありがとう。

お客様の声を掲載しました

弊事務所では,今後の事務所運営をよりよいものとするために,事件終了時に,依頼者様に任意でアンケートを書いていただいております。

1周年となり,お書きいただいたアンケートも増えてまいりましたので,その一部を今回,ホームページ上に掲載することにいたしました。もちろん,ご依頼者様の同意を得ておりますし,守秘義務に反しないよう配慮した形での掲載となります。

これから弊事務所へのご相談やご依頼を考えている方の参考になれば幸いです。

 

 

 

おかげさまで1周年

本年2月1日を持ちまして,弊事務所も開業してから1年が経ちました。つまり,1周年ということになります。

開業といいましても,昨年の2月1日の頃は,まだまだ事務所の体をなしていませんでした。

相談室のパーテーションが出来たのは2月下旬であり,当初はガランとした部屋に相談用のテーブルと椅子がちょこんとあるだけでした。2月上旬に相談に来られた方は随分とがらんとした事務所だなと思われたのではないでしょうか。

また,入口の看板が出来たのは4月下旬であり,看板が出来る前は,相談者の方が事務所の前を右往左往してしまい,それを私が事務所はこちらで間違いありませんと呼び止める,ということがしばしばありました。

さらに,今では大きな観葉植物が6つありますが,これも5月頃に購入したものですし,傘立てにいたっては,梅雨入後に購入したと記憶しております。

2月上旬にご依頼いただいた方が,相談に訪れる度に,「お~随分事務所ぽくなりましたねぇ」とおっしゃり,事務所の体をなした7月頃に事件が解決し,「先生のところに来てよかったなぁ」と嬉しそうにおっしゃって去られたときには,本当に地元の柏市で開業してよかったと思ったものでした。

大変忙しかった1年でしたが,あらためて考えますと,柏市およびその周辺にお住まいの方々と企業様に支えられて過ごすことができた1年だったなと,感謝に絶えません。

今後も,柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様に支えていただきながら,良質な法的サービスを提供することで,地元柏市およびその周辺にお住まいの市民の皆様と企業様に貢献していきたいと思います。

2年目も,石塚総合法律事務所をどうぞ宜しくお願いいたします。

 

先生のご専門は何ですか?

弁護士あるあるだと思うのですが,弁護士は,初めてお会いした方から,標題の質問をされることが少なくありません。

それに対して,(多くの)弁護士は「何でもやりますよ」,「町弁は幅広く法律問題を扱うものです」等と答えるのではないでしょうか。中には「全部が専門ですよ」という(強気じゃなくて,優秀な)先生もいらっしゃるかもしれません。かくいう私も,基本的に同様なお答えをしております。

しかし,おそらくこの答えは,質問者が求めている答えではないと思います。この質問をする方は,たとえば,医師であれば,内科,外科,整形外科,産婦人科等々,診療対象(専門)が明確なので,どんな先生かある程度わかるけれど,(多くの)弁護士は何を専門にしているのか(何を中心分野としているのか)わからないと考えておられる可能性が高いからです。

このように考えている方に,「何でもやりますよ」といっても,結局,どんな弁護士なのかわからないなで終わると思うのです。自己の抱えるトラブルに強い弁護士を探すときは,なおさらでしょう。

このように,質問者が求めている答えではないと思いつつも,基本的に「何でもやります」と答えるわけですが,そのように答える理由なり,事情が実はあります。

まず,幅広く事件を扱うために,特定の専門分野を持たないようにしている,というのが理由の一つです。

弁護士毎に,ありたいと思う弁護士像は違うと思いますが,私は,幅広い法律問題を扱える弁護士でありたいと考えております。困っている方から問合せがあったときに,それは自分の専門外だからお答えできません,他の弁護士にご相談下さいと言うことなく,大丈夫ですよ,まずはご相談下さい,といえる弁護士でありたいと思っているのです。そのため,「何でもやります」と答え,幅広い事件を扱うようにしています。

次に,特定の専門分野を持たない方が,弁護士費用を抑えつつ事務所を維持しやすいという事情もあります。

といいますのも,専門的な分野をもてば,その分それ以外の分野の法律問題は扱わないことになるため,扱う事件数が減る可能性・危険性があります。(マーケティング的にはこの考えは必ずしも正しくないでしょうが,都会とも田舎ともいえない,郊外たる柏市周辺を商圏とし,競合する事務所数も少なくない弊事務所の置かれている状況等を踏まえると,その可能性・危険性は高いと考えています。)

そして,少ない事件数で事務所を維持しようとすれば,弁護士費用は高くせざるをえません。たとえば,最近,刑事事件を専門にした法律事務所,その中でもクレプトマニア(窃盗を止めたくても自らの意思では止められないという病気)の刑事事件を専門にする事務所がありますが,事務所によっては,弁護士費用をかなり高めに設定しているようです。(上記事情からすればやむを得ない面があり,もちろん悪いことだとは思いません。)

あくまでも考え方の違いですが,私の置かれている状況で,依頼者に経済的な負担をかけずに事務所を維持していこうとすれば,扱う事件を幅広くした方が望ましいと,私は考えています。これが,「何でもやります」と答えざるを得ない事情です。

もっとも,その分野しか行わないという意味の専門分野はありませんが,私にも多く扱っている分野,案件はございます。現在の私の状況ですと,熟年離婚の案件,遺産分割の案件,兄弟間の遺産の使い込み案件などがこれにあたります。これらは,私がこの分野,案件を扱いたいと思っているから多く扱っているというよりは,たまたまそういう案件が集まったというだけであり,時間とともに,扱う分野や案件は変化すると思います。

ですから,現時点において標題の質問をされたときには,私は,基本的には「何でもやります。」と答えながらも,弁護士としての私をできる限り質問者に伝えるために,次のように答えることになります。

「何でもやりますので,専門分野といえるものはありませんが,現在,離婚事件なら熟年離婚の案件,相続事件なら遺産分割や兄弟間の使い込みが問題となる案件,労働事件なら雇用契約上の地位が問題となる案件を多く扱っています。また,私自身は企業法務に関心があるので,顧問先の案件も丁寧に取り組まさせていただいているところです。」

 

なんか理屈っぽい弁護士だなと思われそうですけれども。

電話での法律相談をしない理由

あけましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いいたします。

さて,弊事務所も,来月で開所1年となります。およそ1年が経ち,気になっていることがございますので,今回はそのお話しを少ししたいと思います。

弊事務所もインターネットをはじめ,タウンページ他の媒体に広告を出している関係から,ありがたいことに,多くの方から法律相談のお問合せをいただいております。ただ,お問合せの中で,時折,困ったなあと思うことがございます。

それは,お電話いただいた方の中で,電話での法律相談を希望される方が少なからずいるということです。予め,申し上げておきますが,弊事務所では,電話での法律相談を受け付けておりません。

そこで,今回は,何故弊事務所が電話での法律相談を受け付けていないのかについてご説明させていただきたいと思います。

電話での法律相談をしない理由はいくつかありますが,その最たる理由は,電話では事実関係を正確に聴き取ることができないため,誤った回答をしてしまう危険がある,ということにあります。

電話での法律相談を希望される方,いやそれ以外の方も,法律相談とは,疑問を弁護士にぶつけると,法律を何でも知っている弁護士が,法律では○○となっていますと,ただ答えるものだと思っているのではないでしょうか。あたかも疑問を投入すれば,弁護士という自動販売機がポンと法律上の答えを出すというイメージをもたれているように感じます。

しかし,法律問題はこのように抽象的・定型的に処理することは出来ません。法律問題には個性があるからです。ある事例では○○という処理でも,ある事例では××という処理をするというように,具体的な事実関係によって,事件処理の方向性は大きく異なります。

そのため,弁護士は,法律相談では,何より事実関係を正確に把握することに注力します。相談者が前提としている事実,相談者が疑問を持つに至った経緯等を一つ一つ確認するのです。相談者の方からしたら,何故そんなことまで聞くのかと思うことも,大切なことならば,余すことなく聴き取ります。また,相談者の言う事を鵜呑みにせず,資料に照らして相談者の言う事に間違いがないかを一つ一つ確認していきます。

事実関係を正確に把握できて,初めてその後の事件処理の方向性や,証拠の収集の可否,事件の筋を見極めることができるようになるのです。なお,事実関係を正確に把握すると,相談者が疑問に思っていることは大したことではなく,それ以外の点が大きな問題であることがわかるということも少なくありません。

このように,事実関係を正確に把握することは法律相談の基本であり,とても大切なことなのですが,電話での相談ではそれは極めて困難であり,かつ,大変時間がかかってしまうのです。電話では資料を確認することは出来ませんし,互いに図を示して話をすることができないので,相互理解に時間がかかります(たとえば相続関係説明図があれば一見して相続人が何人いるのかわかるところを,電話で相続関係を正確に伝えるのは難しい為,時間がかかります。)。

以上の事情から,弊事務所では,電話での法律相談を受け付けていないのですが,これを電話での法律相談を希望する方に説明するのは,なかなか困難だったりします。

当職「病気を見てもらうときも,電話で問診を受けませんよね。実際に,病院に行って聴診器を当ててもらいますよね。それと同じと思って下さい。」

相談者「いや,簡単なことだから。ちょっと答えてくれればいいから。」

当職「(簡単なことなら電話しなくていいのでは・・・)しかし,事実関係を正確に把握しないと,こちらでは安易にお答えできないのです。安易に答えたことを,弁護士が言ったから間違いないと思われてしまうと,あなた様の為にもならないと思うのです。弊事務所では,事前に予約を入れていただければ,平日の夜間も,休日も対応することが可能ですし,初回30分であれば無料でご相談できます。来所していただけませんか。」

相談者「いや,簡単なことだから,わざわざ行くことないと思うんだよ。」

 

手間をかけずにその場で回答が欲しいというお気持ちはわからなくはないですが,上記の理由から,弊事務所では電話での法律相談はお断りしておりますので,ご理解いただけたら幸いです。

あけましておめでとうございます

年始のご挨拶をさせていただきます。

本日,1月5日から通常通り営業を開始いたします。

昨年に引き続き,どうぞ宜しくお願い申し上げます。

弁護士法人の業務停止処分により委任契約を解約された方へ

多くの方がご存知だと思いますが,平成29年10月11日,弁護士法人アディーレ法律事務所が,業務停止2ヶ月の懲戒処分を受けました。

懲戒理由は,不当景品類及び不当表示防止法(以下,「景品表示法」といいます。)第5条第2号違反です。景品表示法第5条第2号は,実際のサービスよりも著しく有利であると誤認させ,一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示(有利誤認表示)を禁じています。

新聞報道等をみますと,同事務所は,ウェブサイト上で,過払い金返還請求の着手金を無料または割引にする等のサービスを実際には5年近く続けていたものの,約1ヶ月の期間限定のキャンペーンである等と謳っていたために,かかる表示方法が景品表示法第5条第2号が禁じている有利誤認表示にあたるとして,先の懲戒処分が下されたとのことです。

同処分が重いと感じるか軽いと感じるかは人それぞれでしょうから置いておくとして,問題なのは,同事務所に依頼していた事件がどうなるのかです。2ヶ月の業務停止ですから,基本的に事件は解約になると思われます。

依頼者にとっては,突然,自己とは無関係な理由で委任契約を解約されるのですから,その困惑の大きさは想像に難くありません。東京弁護士会は一連の懲戒処分について相談窓口を設けたそうですが,新聞報道によりますと,電話がなかなか繋がらないほどに混乱しているようです。当事務所においても,突然委任契約を解除された,どうしたらいいのかという相談が既に来ております。

そうしたところ,千葉県弁護士会においても,この度,解約された依頼者の受け皿(相談及び受任のための窓口)を設ける動きが出ております。

したがいまして,委任契約を解約された方におかれましては,まずは東京弁護士会,千葉県弁護士会をはじめとした各県弁護士会や,各法律事務所に一度ご相談されてみてはいかがでしょうか。